好奇心 ページ1
．
目の前に一枚の紙が、
冬支度を進める枯葉のように
私の足元に滑り込んできた。
厚みのあるその紙を
しゃがみこんで拾い、
何気なく裏へ返す。
駅前にある
大型ショッピングモールの、
最上階展示フロア。
そういった界隈にいる人には
名前が伝わる程度の、
有名とも駆け出しとも言い難い
中途半端な位置にいる芸術家の
作品がここには集まっている。
偏に作品と言っても
それは様々なもので、
定番の水彩画や油絵、写真、
更にはよく分からない
現代版にアレンジされた
伝統陶器のようなものまで
置いてある。
かくいう私もここに作品を
出展している者の一人で、
ここ数年で仕上げた
自慢の油絵をありがたいことに
三点ほど持ち込ませていただいた。
自慢とは言っても、
私の絵は特別秀でた点が
ある訳では無い。
写真のような絵、
と称されるのが妥当であるような、
それのみで見れば
目に入るかもしれないが
こうもたくさんの優れた作品が
並ぶと霞んでしまう程度の、
可もなく不可もない作品。
裏返したそれは絵葉書で、
展示会に来場した人に
一人一枚プレゼントされる
特典のようなものだった。
今どきはがきを普段から
送る人なんているのか、
と疑問に思うが、
懐古趣味の人間や私とは違う類の、
文才の方面で才能を
伸ばしている人はもしかしたら
使っているのかもしれない。
まあどれほど考えたって結局、
ここに展示を見に来ている人の中に
ハガキを送る人など
ひと握りもいないのだろうけど。
絵はがきの裏にプリントされていたのは、
今回出展した私の作品だった。
日本に行って美しいと思った、
川面に反射する紅葉を描いた
これまた自慢の作品。
ランダムで様々な画家の絵が
印刷されるはがきに、
これを落とした人は
私のものを引いたのだと、
どこか運命的なものを感じた。
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作者名：なぎしば | 作成日時：2021年12月2日 21時
