気分屋の零 ページ6
『………黒死牟、彼処が良い』
夜でも賑わう浅草の街。
その中でも特に目立つ服装の二人がいた。
一人は白髪に整った容姿の見た目十歳前後の少女。
もう一人の男は上背があり、容姿も整っていたが顔に包帯を巻いている。
すれ違う人々は手を繋いで歩く二人をちらりと見ながら歩くが、男の方が鋭い視線を送るので直ぐに目を逸らした。
側から見れば、容姿端麗、将来有望な仲の良い兄妹だが、二人は鬼の中でも最も恐るべき存在。
そんな二人がのうのうと浅草に来て、最初に訪れたのは小さな甘味処だった。
「……鬼は…人間の食い物を喰わないはずだ」
『私は人間の食べ物も食べれる』
そう言って女中に桜餅とお汁粉を頼む緋翠。
黒死牟は驚いて彼女の赤い目を見たが、直ぐに目をそらした。
そして、ふと気付く。
「金は、持って来たのか…？」
黒死牟の問いに顔を上げた緋翠は懐からある物を取り出す。
それは、茜色の巾着で。
『先刻、街の人から盗った』
そう言って黒死牟に巾着を渡し、覗いてみろ、と言うふうに顎を動かす。
黒死牟が紐を緩め中を見れば、中には高級そうな簪と宝石が何個か入っていた。
『………それで、平気なはず』
いつの間にか来ていた汁粉を啜り始めた緋翠に、再び巾着を返す。
緋翠はそれを机の上に置き、続いて置かれた桜餅にも手を伸ばし、次々と完食していく。
本当に食べれるんだな、と何故か関心していると、緋翠は新たに桜餅を何個か購入していた。
それを箱に詰め、そそくさと出て行こうとする緋翠に声をかける。
「……もう、良いのか？」
『………………早く行こう』
小さな手で黒死牟の袖を握り、暖簾を潜る緋翠。
黒死牟はそれに従って歩いたが、何やら気配を感じて先程までいた甘味処を振り返った。
そこに居たのは、黒髪の男と桃色の髪の女。
「緋翠、あれは柱だ……」
『そう、だから早く帰ろう』
「殺さねば」
『駄目』
「………何故だ」
何故か鬼殺隊がいると言うのにどんどん逆方向に向かって歩いていく緋翠の手を、黒死牟はぐいと思い切り引き、歩みを止めさせる。
ゆっくりと黒死牟の方を振り返った緋翠は、その韓紅色の瞳に黒死牟を映していった。
『………今日は、桜餅があるから駄目』
「だが」と黒死牟が口を開こうとした時には、緋翠は鳴女を呼んで無限城に戻って居た。
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Cynic** - 覇戮さん» コメントありがとうございます。返信滅茶苦茶遅れてしまってすみません…ずっと書きたくて、書いてる時も楽しかった私も大好きな作品です。殆ど自己満足に近かったのに、沢山の方に読んで頂き評価をもらえて私もとても嬉しいです。温かいお言葉ありがとうございます！ (2020年7月3日 22時) (
レス) id: b937c10b42 (このIDを非表示/違反報告)
覇戮 - 完結おめでとうございます。とても良い作品で涙が出てきました。応援してます！ (2020年5月20日 14時) (レス) id: 193145533a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Cynic** | 作成日時：2020年2月16日 15時
