特別な個体 ページ16
『＿＿＿＿馬鹿無惨。
……何がしたかったの』
「ふん、私があんなこと本気でいうと思うか？
冗談に決まっているだろう」
『………そう』
無惨によって集められた上弦達が帰った後、緋翠は無惨に問いただしていた。
八百年も一緒にいて、今迄あんなこと言われた事無かった。
巫山戯るな、とそう言いたかったが、あっさりとそれは冗談だと言われて仕舞えば、それもそれで悲しくて。
訳の分からない感情が胸の中に巣喰い、一人でモヤモヤしていると無惨が言った。
「………お前は、鬼になった事を後悔しているのか？」
無惨のその問いに、思わず肩を跳ねさせる。
正直言うと、後悔はしていた。
緋翠の持つ夢は鬼には一生叶えられない夢で、それが理由で鬼になった事を後悔している、なんて言ったら、いくら無惨でも怒るかもしれない。
故に、緋翠は小さく首を横に振った。
『ううん。
………後悔、してない』
実際、後悔してもいなかった。
鬼に有るまじき感情が自分には残されていて、そのせいで後悔していなかった。
きっと、鬼になった時にこの感情も消え去ってしまって入れば、私はきっと鬼になった事を悔やんでいただろう。
否、でも、もしかしたら＿＿＿＿
『………ねえ、無惨』
「なんだ」
相変わらずぶっきら棒な声で返事をくれる無惨。
己を見下ろしてくる無惨が、何故か精一杯虚勢を張った仔犬みたいに見えて、可笑しく思ってしまう。
唐突にクスクスと笑い始めた緋翠に、無惨は不思議そうな顔をした。
それすらも可愛らしく＿＿＿＿愛おしく思えてしまって、緋翠は自然と滅多に浮かべることのない微笑を無惨に向けた。
『無惨。
私は……鬼になる前の記憶がもう無い』
「それは……」
『別に、鬼になる前の私がどうだったかなんて……
興味ない、構わないの』
無惨は赤の瞳を細め、瞳孔の狭まったその瞳にしっかりと緋翠を映した。
緋翠は、鬼の中でもかなり強い自我がある方だ。
無惨の呪いも発動しない様な、特別な個体。
無惨も緋翠が自分を裏切る訳がないと、呪いを無理につけようとはしない。
寧ろ、呪いをつける事を拒みさえした。
緋翠は、無惨に死ねと言われれば迷わず己の血鬼術を用いて死ぬだろう。
それ程の、無惨への忠誠心。
否、それは忠誠心とは少し違った感情で＿＿＿＿
『＿＿＿＿無惨に、話しておきたい事がある』
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Cynic** - 覇戮さん» コメントありがとうございます。返信滅茶苦茶遅れてしまってすみません…ずっと書きたくて、書いてる時も楽しかった私も大好きな作品です。殆ど自己満足に近かったのに、沢山の方に読んで頂き評価をもらえて私もとても嬉しいです。温かいお言葉ありがとうございます！ (2020年7月3日 22時) (
レス) id: b937c10b42 (このIDを非表示/違反報告)
覇戮 - 完結おめでとうございます。とても良い作品で涙が出てきました。応援してます！ (2020年5月20日 14時) (レス) id: 193145533a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Cynic** | 作成日時：2020年2月16日 15時
