シャングリラエッジ【ars J.M】

26.続・情報収集。 ページ26

潤さんが軽く言うけど、スマホの中で綺麗な表情を見せてるこのモデルさんは全然普通に見えない。

「これが普通なんですか？」

スマホの画面を潤さんに見せると「それ、ビジネスの顔」と言いながら、ピシッとデコピンするみたいに画面を指で弾いた。

「普段はうるさいしいつもお祭り騒ぎだし、子供みたいな奴」
「えっ！？こんなにクールなのに！？」

信じられない。
無口で感情の起伏も少なそうに見えるのに。
さすがモデルさんだ...と思いながらスマホの画面を消す。


その時、事務所のインターホンが鳴った。
デリバリーがやって来たらしい。
潤さんが「はーい」と立ち上がりドアを開けて丼を受け取ってるから、私も自分の天丼を受け取りに行く。

隣に行くと潤さんから「ん、こっち」と天丼を渡されて、ドキドキ。
なんか今の、新婚さんみたいな感じ。勝手に私がそう思っただけだけど。

ソファに戻ってまた向かい合わせで座って、揃って「いただきます」
大きな口を開けてモグモグとカツ丼を食べてる潤さんを見ながら、私はあんまり口を開けないようにして天丼を食べる。

お箸の持ち方、大丈夫かな...あ、口の周りに天かすついてないよね！？ご飯粒こぼしてないかな？
もう色々と気になり過ぎて、味がよく分からない。


「潤さん、天ぷらだと何が好きですか？」

こんな時でも情報収集に余念が無い恋する乙女。

「んー...キノコ類とか好きだけど」
「あ、椎茸ありますよ！あげます！」
「え？いや、別に欲しいって言ったわけじゃ...」

潤さんが喋ってる途中だったけど、自分の丼の中から椎茸の天ぷらを彼の丼の上に置いた。

「おいこら、ここに置いたら卵がつくじゃん」

迷惑そうに眉を顰めたくせに口元が緩んでる潤さんに嬉しくなる。

「味が変わるだろー」
「大丈夫ですよ！天つゆのポテンシャルを信じて！」
「はぁ？何だ、お前」

呆れたような笑い方。
その笑い方が好き。そうやって、たくさん笑いかけて欲しい。


「じゃ、俺からもコレあげよ」
「え？」

私の天丼の端っこに置かれた、豚カツ。
卵がトロっと茄子の天ぷらに流れた。

「あー、茄子の味が変わっちゃう！」
「大丈夫！天つゆのポテンシャルを信じろ！」

私が言った台詞を繰り返した潤さんに、胸がギューッと縮んで苦しい。
豚カツ分けて貰えたのも嬉し過ぎて、こんなのタッパーに入れて持ち帰りたい。


穏やかな昼下がり。

「うわ、降ってきた」

窓の外は、突然の豪雨。

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