シャングリラエッジ【ars J.M】

24.お昼ご飯。 ページ24

誰も居ない澪の中に入ると、潤さんが「座ってて」って言ってくれたから前と同じように茶色いソファに座る。
一度は入った事がある場所なのに、またキョロキョロしてしまう。
こないだと違うのは、さっきまで使っていたのか美容スペースがパーテーションで隠されてる事と、潤さんのデスクの横に大きな観葉植物が置いてある事。


「その葉っぱ、可愛いですね」
「あぁ、これ？今更だけど開業祝いってこないだ翔さんが買ってくれたんだよ」

潤さんが向かいの席に座って、私に「どれにする？」とチラシを渡して来た。
見ると、丼物のテイクアウト。

「どーしてもカツ丼食いたかったんだけどさー」
「はい」
「その店、1500円以上頼まなきゃ配達してくんないの。でも、カツ丼850円」
「...あ、まさか」

ハッとしてチラシから顔をあげると、彼はニィっと笑った。
その瞬間、唇の下にあるホクロが見えた。


「みぞれも頼んでくれたら、配達して貰えるなーと思って」
「あー、なるほどー...」

あー...そっかー...そーだよねー...！
なんて合理的な人。
何かちょっと自惚れそうだった自分が恥ずかしい。
だけど、利用された事すらちょっと...いや、結構嬉しいんだからもう重症だ。

「みぞれ、何にする？」
「えっと、待ってくださいよ？んー、何が良いかな」

チラシと睨めっこ。
カツ丼...は、男っぽ過ぎる？
じゃあ天丼？海老天丼...かき揚げ丼...

「野菜天丼で！」

何となく一番女子っぽい気がした。野菜だから。
本当は海老天丼が良かったけど。

「了解」

潤さんがスマホを出して、電話をかける。
何気なく組まれた脚が、格好良い。
やっぱりモデルみたい。ハリウッド俳優みたい。

「もしもし、注文お願いします。カツ丼とー、野菜天丼で」

私が食べる物を潤さんが注文してくれてるだけで、ドキドキする。


「20分程度で来るって」
「あ、はい」
「来るまで暇だなー...」

潤さんがアクビをしてソファに深く沈んだ。

「しりとりでもするー？」

そして、そのまんまの姿勢でそんな事を言い出す。

「しりとり？」
「フフッ、うそうそ」
「しましょ！しりとり！でも普通じゃつまらないから歌の歌詞しりとりとかどうです？」
「みぞれ、本気？」
「もちろん！」

しりとりでも何でも、潤さんと出来るなら。
そんな気持ちだったんだけど。


「みぞれって...」
「はい」
「いや、何でもない。よし、しりとりするか！」

潤さんは、少し悲しそうに笑った。

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