シャングリラエッジ【ars J.M】

22.アイスクリーム。←9.5 ページ22

毎日やるべき仕事のひとつに、玄関前の掃除がある。
暑いからできるだけ午前中にやってしまうのがパターン化して来た。

その日も私はお昼前に玄関前に出て、箒でゴミを集めドアのガラスを拭いて、最後にホースで水を撒く。
打ち水みたいな。ちょっとでも涼を求める的な。

「あっちー...」

首に掛けてるタオルで汗を拭きながら「水撒いた位じゃ今年の夏には立ち向かえないよ...」と呟くと、背後から「多少は涼しいけど」と声をかけられた。
振り返ると、潤さんが手に持ったカップアイスを食べながら私の横を通り過ぎる。


「あ...美味しそう...」
「え？」
「あっ！？すみません、暑すぎてついつい心の声が！」
「みぞれ氷じゃないのに？」
「女子はアイスが好きになるよーにDNAに組み込まれてんですよねー」

何だそれ、って潤さんが鼻で笑って

「じゃ、これ食う？」

食べかけてたカップアイスを私に差し出した。
中身は紫色のアイス。


「えっ！？」
「え？あぁ、これ紅芋味」
「それは分かってますけど...」
「暑くて思わず買っちゃったけど、全部は食えねぇなーって思ってたし」

「ん」と、ぶっきらぼうにホースを持ってない方の手に渡される。暑かった掌が、一瞬で冷やされた
ホースの先からはチョロチョロと水が流れ続けてる。

じぃっとアイスを見つめてしまう。
紫色のそれは、半分溶けてる。


「あ、ごめん。みぞれってもしかして潔癖？」
「えっ！？全っ然！」
「全然ってのもどーかと思うけど」

...たしかに！女子が全然潔癖じゃないってのは、結構問題有りな気がする...やってしまった...

「まぁ、いらなかったら捨ててくれたら良いし」
「捨てないです！食べます！」
「そ？だったら、これもどーぞ」

カップの上に乗せられた、さっきまで潤さんが使ってた木のスプーン。

嘘でしょ...嘘でしょ、これは間接キスとゆーやつに...！
やばいよやばいよ、やばいよやばいよ...私の中の哲朗が大騒ぎだよ...！


「アハッ！さすがにそれは使えないか！」

私がワナワナしてると、潤さんが笑って無情にもスプーンを取ってビルの中に入っていった。

あぁ...間接キスが...
こんな事ならさっさと食べ始めたら良かった...


「なぁ、みぞれ」

ビルの中から潤さんに呼ばれて、項垂れてた顔を上げる。

「昼飯食った？」
「...いえ、これからです」
「一緒に食わない？」
「.....え？」

ホースが手から離れて私の靴を濡らしたけど、そんなの全然気にならなかった。

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