雨 ページ8
実際、料理は無駄に豪華なばかりで味はありきたりだし、フロアの中央で奏でられるピアノは楽譜に忠実なだけで面白みがなかった。
ただ、大きくとられた窓から見える夜景は美しくそれだけがこの店のいいところだとAは思っていた。
その景色を見ていると、たとえ一緒にいる男が自分のことばかりで気遣いがなくても、料理や音楽に満足してなくても、素敵なデートをしている気持ちになれた。
ヴァンパイアは孤独で、悲しかった。
だから、ときどき普通の人間のようなことをしてみる。
永い時間を埋めるために。寂しさに押しつぶされないように。
今夜はもう十分。
食事を終えた２人は店を後にする。
Aはよろめいて男の胸へ身体を預けた。
「大丈夫か？」
「すみません。私お酒に弱くって。
さっき飲んだワインが回ってきたみたい。
どこか休めるところへ連れて行ってくれませんか？」
「・・・うちに来るかい？すぐ近くなんだ。」
Aはにっこりとほほ笑んでみせる。
.
.
ドサッ
Aが手を離すと男の体は絨毯の上に倒れた。
「思ったよりおいしくないのね。」
Aは口の端についた血を拭くと、男をベットへ運ぶ。
「ここの景色もきれい。」
窓から見える夜景をしばらく眺めたAは何事もなかったようにマンションを出た。
途中、降り出した雨がAをぬらしていく。
そんなAに誰も傘を差し出さないのは、A自身が気配を消しているから。
ヴァンパイアの美しさに魅了されないものは珍しい。その瞳に映されたら最後、魂まで持っていかれてしまうだろう。
けれどやりすぎてはいけない。
もう時代は変わり、人々は恐れるばかりではなくなったのだ。異端を排除することで生きて行く力を持った。
必要以外は隠れて生きる。それが常となった。
雨はいい。人間の視界は霞められ、傘にさえぎられる。
だから、Aは油断してしまった。
Aを追う２つの影に気付かなかった。
＊
「えー、もう帰っちゃうの？
リュウいないとつまんないじゃん。」
「ごめんって。そんな顔しないで。」
クラブの入り口でとろけそうな甘い顔して女の頭をなでながら、
他の男ともよろしくやってんの知ってんだよ！と悪態をついた。
もちろん心の中で。
女はそのまま腰に手をまわして、上目遣いで攻めてくる。
「こないだも、いつの間にかあたし置いて帰っちゃてるしさ。」
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yori(プロフ) - また来ましたっ（´▽｀*）。ずっと探しててwww見つけた時は息が詰まるほど嬉しかったです。もう一回読み直しますっ。更新は無理しない範囲でしてください (2012年12月13日 16時) (
レス) id: 88ffb53b2c (このIDを非表示/違反報告)
tutu(プロフ) - yoriさん» コメありがとうございます。お返事、更新共に遅くなってしまい申しわけありません。なかなか更新ができない状況ですが、気長にお付き合いくださるとうれしいです。がんばります！ (2012年9月4日 22時) (レス) id: a617facaa6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：tutu | 作成日時：2012年7月1日 23時
