覚えてますか ページ15
タクシーは、病院の正面入り口でクリスを降ろした。クリスは、どうしようかと逡巡したのち夜間用の裏口へと向かった。裏口の警備員に事情を話し、案内された通りに薄暗い廊下を進んだ。消灯時間は過ぎていたため、しんと静まりかえったなかに靴音だけがやたらと響いた。
｢こんばんわ｣
突然声をかけられ、クリスは飛びあがった。見ると誰もいないと思っていた待合室の椅子に１つの影があった。クリスは、恐る恐る近づいた。
｢そんなに怖がらなくても。幽霊じゃありませんよ。｣
声の正体は、若い女性だった。長い黒髪の。分かってなおドキリとしたが、彼女の笑い声が存外可愛らしく響き、クリスはほっと胸をなでおろした。
｢こんばんわ。｣
何してるんですか？こんな時間にこんなところで。言いそうになってクリスは口をつぐんだ。自分だって同じではないか。見たところ女性の恰好は入院患者のようではない。きっと彼女も診察に訪れたか、付き添いなのだろう。クリスは聞く気がなかったが、それ以上に彼女は聞かれることを拒絶するような笑みをたたえていた。
｢座りませんか？｣
｢？？ あ、いえ、自分はこれから診察を受けなければいけなくて・・｣
どうしてそんなことを言われるのか分からなくてクリスは困惑しながらも応えた。
｢それなら、大丈夫ですよ。担当の先生が遅れるからって私もここで待っているんですから。｣
｢そうなんですか。お１人でですか？｣
｢ええ。付き添ってくれる人もいないもんで。｣
｢あ、いや、そういうわけじゃ。｣
クリスは、ばつが悪そうに頭をかいた。
｢受付がまだですんで、｣
｢今誰もいませんよ？さっきまではいたんですけど、急な呼び出しがあったらしくて。｣
｢えっ？｣
そう言われ、すぐ先の角から顔を出して夜間用の受付をみたが、区切られた四角いブースには誰もいなかった。
｢ここにいれば、そのうち先生が来ますよ。｣
それもそうだなと思い、クリスは椅子に腰かけた。そのようすを女性はニコニコとみていた。
沈黙。
クリスは女性が何か言うものだと思って黙っていた。しかし女性、あれからは一度も話しかけてこない。その代わりと言っては何だが、視線を感じる。というか実際、横を見たら目があった。そして二コリと笑いかけられた。ただそれだけ。そのまま女性はこちらを見ている。。気がする。耐えきれなくなったクリスは、女性に聞いた。
｢あの、なにか？｣
彼女は、ほほ笑みを深くして言った。 ｢私のこと覚えてませんか？｣、と。
続く
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yori(プロフ) - また来ましたっ（´▽｀*）。ずっと探しててwww見つけた時は息が詰まるほど嬉しかったです。もう一回読み直しますっ。更新は無理しない範囲でしてください (2012年12月13日 16時) (
レス) id: 88ffb53b2c (このIDを非表示/違反報告)
tutu(プロフ) - yoriさん» コメありがとうございます。お返事、更新共に遅くなってしまい申しわけありません。なかなか更新ができない状況ですが、気長にお付き合いくださるとうれしいです。がんばります！ (2012年9月4日 22時) (レス) id: a617facaa6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：tutu | 作成日時：2012年7月1日 23時
