むかしのおはなし３

こっちを見て　ＭＴ ページ37

他を見てたら嫌なんだ。







＊ こっちを見て ＊







「みやっち」

呼んだら、オレだと気付いて、にへらって笑うみやっち。
オレの好きな笑顔。
でも。

「だいっきらい」

珍しいくらいの笑顔で、伝えて。
くるりと背を向けると、そのまま鏡の前の席に座っている藤ヶ谷くんに近づく。
向こうから、「え！？」とか「たまちゃん！？」とか聞こえたけど、聞こえないもん。
……みやっちなんて、知らない。

「たま？」

優しい声で、呼ばれて。
顔を上げたら、声とおんなじくらい、優しい顔した藤ヶ谷くん。
隣に座るけれど、落ち着かない。
なんだかソワソワするし、きょろきょろしちゃう。

「……そんなに、宮田が気になるの？」

くすり、笑われながら、言われて。
「違うよ」って言うけれど、たぶん、説得力ない。
気になるよ。
いま、みやっちがどんなカオしてるのか。
どのくらい、オレを気にしてくれているのか。
だって、最近のみやっち。
ちっとも、オレを構ってくれないんだもん……

「た、たまちゃん……？」

恐る恐る、って感じに名前を呼ばれて。
鏡越しに確認したら、ビクビクしているみやっち。
……なんで、オレはこいつがいいんだろう？

「……ぜんぶ、じゃないの？」
「……え、聞こえてた？」
「うん。ちっちゃくね」

そう笑う、藤ヶ谷くんは、やっぱり優しかったけど。
でも、オレの求めている優しさじゃなくって。
その人じゃ、なくって。
落ち着くコトはできない。

「……ぜんぶ、かあ」
「オレにはこれっぽっちも理解できないけどね。たまはすごいよ」

オレは、一言も言ってないのに。
ぜんぶ、って前提に話が進んでて。
藤ヶ谷くんは、心底感心したように言ってきた。
それが、あんまりいい意味じゃないのは、わかっていたけれど。
なんか、みやっちが好きなのを認められたみたいで、ちょっと嬉しい。
みやっち、いいとこいっぱいあるもん。
ってコトは、やっぱり、オレはみやっちのぜんぶが好きなのかな？

「ってか、宮田キョドりすぎててキモいんだけど」
「それ言っちゃう？」
「たま、なんとかしてよ」
「……しょーがない」

鏡越しに確認しながらの藤ヶ谷くんの、言葉に。
嬉しそうに、笑っているオレ。
きっと、藤ヶ谷くんにはお見通しなんだろう。

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