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百二十四振り ページ4

どうすれば良い。私はどうすれば良い。
何も考えつかないくせに、視界がボヤけた。ぽたぽたと目から垂れていく。
自分の不甲斐なさに、情けなさに、山姥切を失いそうな恐怖に、涙が溢れてきたんだ。
どうしよう。どうしよう。
息が上がる。
怖い、怖いよ。母さん、私、私のせいで、山姥切が__嫌だ、嫌だ。
混乱する私の手に、温もりが触れた。
驚いてそちらを見れば、燃える様な赤髪が揺れている。
「落ち着け、主さん」
何処までも、落ち着いた声。
「あ、いぜん……」
愛染国俊の、見た事も無い程に落ち着いた表情。
「大きく、息を吸え。心を強く持て。弱気になるな、主さん」
琥珀の瞳が、迷い無く私を見つめる。
「……」
私の心を支配していた恐怖が、吸い込まれていく様な感覚を覚えた。
「…ハァ……スゥー…………」
大きく、大きく深呼吸をする。
終いに、両頬を力一杯叩いた。
血が付着した。山姥切の生命の糧だ。
__失ってたまるものか。私の大切な人を、刀を、神様を。
「愛染と堀川、こんのすけは此処に残って山姥切の血の処理を。他の皆は今すぐ帰還する。時計の準備を」
『了解』
「山姥切は刀に戻す」
山姥切への霊力の供給を弱め、元の刀へ戻す。
腕に抱いた。絶対に、絶対に、死なせない。
「帰還」
端的に声を上げた。目を瞑る。
カチコチ、時を刻む音がした。
肌に触れる空気が変わる。
目を開けた。
見慣れた本丸が眼前に広がり、安堵と共に走り出す。
下駄を脱ぎ捨て手入部屋へと入った。
布団に山姥切国広を寝かせる。
すぐに部屋を出、襖を閉めた。
治れ、直れと願いを込める。
中から微かに音がし始めた。
「皆」
玄関で靴を脱いでいる皆に声を掛ける。
「怪我が酷いのは……」
「中傷は僕だけだよ。あとの人は軽傷だけだ」
小夜が答える。
月明かりだけでは分からなかったが、確かに小夜の身体には多くの傷が目立っている。後ろで纏めた髪は短くなっていた。
「小夜、手入しよう」
「分かった…」
玄関から手入部屋まで距離はあまり無いのだが、小夜が跛を引いている事に気が付いた。
先の戦で足を負傷したのだろう。
慌てて小夜の傍まで駆け寄る。
「…どうかした?」
「あ、えっと、足が……」
「これ位、大丈っ……!……大丈夫だから」
明らかに顔を顰めた。大丈夫な筈が無い。
「…小夜、ごめんね」
先に謝り、背を屈める。
膝の裏と背中に手を回し、抱き上げた。
__軽い、とても。子供の様に。
胸一杯に、形容し難い感情を抱いた。

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設定タグ:刀剣乱舞 , 山姥切国広 , 夢小説   
作品ジャンル:アニメ
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ナガミ(プロフ) - 睦月乃さん» 御意見、有難う御座います!良い話だなんて…創作者として冥利に尽きます。大変嬉しいです!!私も長い話の方が好きなので、もうなんなら文庫本になるくらいに書きたいと思います!! (2018年9月16日 0時) (レス) id: 80f8c5534f (このIDを非表示/違反報告)
ナガミ(プロフ) - Lupineさん» 御意見を下さり、有難う御座います!占ツクでは余り長い物を見た印象がないため、長編は嫌われるだろうか…そんなにこの話に興味はないだろうか…と悩んでいたので、長編が好きだといってくださって嬉しいです!もうとてつもなく長く書きたいとおもいます!!! (2018年9月16日 0時) (レス) id: 80f8c5534f (このIDを非表示/違反報告)
睦月乃(プロフ) - 私は長い話の方が好きです! いつも良い話をありがとうございますこれからも頑張ってください応援してます (2018年9月14日 17時) (レス) id: fab13ef4ac (このIDを非表示/違反報告)
Lupine(プロフ) - 私は長編小説を読むのが好きなので長く書いてくださると嬉しいです!これからも応援してます! (2018年9月14日 7時) (レス) id: 4de4e1b52c (このIDを非表示/違反報告)
ナガミ(プロフ) - マナマナさん» コメントありがとうございます!!!そう言って頂けてとっても嬉しいです!!!!!!もう本当に嬉しいです...ありがとうございます(´;ω;`)これからも好き勝手更新するので、お暇でしたら是非見て下さい!!!本当にありがとうございます!!!! (2018年9月1日 18時) (レス) id: 6b18d1cb3a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ナガミ | 作成日時:2018年4月4日 21時

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