心が弱い審神者と刀剣男士 肆 【刀剣乱舞】

百五十八振り ページ40

理由は明白だ。
──いや、もう、決めたことだ。今更揺るがない。要らない事で悩む理由はない。
「そうか〜。それじゃあ私が皆と関わる時間を増やせたら、独り占めとかいう概念が無くなるかな？」
「それは無いよ、主。これだけ刀が有れば、必ず何振りかにだけ意識が向いてしまうことがあるだろうからね。主の知らないところで嫉妬する者は出てくるよ」
「えぇ…？どうしたら良いのそれ」
「さぁ。僕にも分からないことはあるよ」
「そんな無責任な！悩ますだけ悩ませて答えが無いなんて！」
「すまないね、主」
「酷い〜」
二人でけたけたと笑っていると、大広間に着く。
数度襖を叩き、日向が襖を開けた。
その瞬間、先程までの良い匂いがもっと濃くなり──
『主、退院おめでとう！！』
パンッ、とクラッカーが弾けた。
分かってはいても、こういうものは慣れないな。
思わず頬を手で覆う。
「…えへへ、ありがとう。改めてただいま！」
『おかえりなさい！』
「主さんの席はこっちだ！」
愛染にぐいぐいと手を引っ張られ、案内されたのはいつもと違う席。机の短辺ではなく長辺の端っこ。
何故、と首を傾げる私に、愛染は笑って言った。
「主さんの隣でご飯を食べたいって話になってさ！主さんの隣の席を交代しながら食べようってなったんだよ」
成る程なぁ。皆、不思議なことを考える。
「分かった。それじゃあ私は此処に座っていたら良いんだね」
「そういうことだな！」
「一番目は俺ですよ、主」
隣の席の長谷部はそう言って胸を張った。しかもドヤ顔している。およそ、またじゃんけんでもしたのだろう。
「長谷部、ただいま」
「主のお帰りを、ずっと心待ちにしておりました」
長谷部はまだ話したそうにうずうずしているが、前を向く。「それでは合図を」と私に促してきた。
愛染と日向が座っていることを確認する。
「皆、本当に色々ありがとう。…いただきます」
『いただきます』
皆がわいわいと料理に手をつけ始める。
何を食べようか。取り敢えず汁物からで良いか。
碗の蓋を開けると、良い出汁の香りが漂う。お吸い物だった。
お麩に豆腐、わかめなどが入っている。
一口汁を啜ると、鰹の旨味が口中に広がった。
「美味しい…」
思わず溜め息が溢れる。
「主、調子の方は如何ですか？」
「全く問題ないよ。心配してくれてありがとう。長谷部は？」
「主のことを考えると気が気でなく…！…あまり優れてはないですね」
衝撃の答えに、思わず固まった。

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