心が弱い審神者と刀剣男士 肆 【刀剣乱舞】

百三十八振り ページ18

山姥切から腕を離す。
瞬間、起き上がった山姥切に腕を掴まれた。鬼の形相で私を見る。
「A！あんた、何故腕を斬った？！！クソッ…血が……！！」
「いっ……！山姥切、落ち着いて！！」
力が強くて、痛みに顔を顰める。
山姥切はそれに気付く様子もなく、傷から滴り落ちていく血を見つめている。
「落ち着いていられると思うのかあんた！刀剣男士(おれ)がその傷を負うのは構わないが、人間(あんた)はそう簡単に治らないんだぞ？！…あぁ、出血が多すぎる……！！簡単な止血方法だがしないよりはまし……」
「山姥切聞いて！？」
「何なんだ！！」
今にも泣きそうな顔の山姥切が視界一杯に映った。
あぁ、何でそんな顔をするの。
どうして、君が泣きそうなの。
君は痛くないのに。痛いのは私なのに。
どうして君が、まるで自分が怪我をしたかの様に、泣きそうなの。
「……これは、夢だから、大丈夫。私は、死なないよ」
「…………『夢』？」
きょとん、という言葉が当てはまる。
山姥切の涙は一気に引き、ただ不思議そうな顔をしていた。
「気付いているよね、山姥切。ずっと、私を庇う『夢』を見ている、って。多分これは、何回目かの『夢』だよ」
「……」
山姥切が沈黙する。
私から手を離し、自分の左腕に触れた。
「…そうか、あんた、俺に同調して、『夢』に入ってきたのか。初めて感じたこの左腕の痛みは……Aの痛みか。……あんた、俺の痛みを、体感したのか？」
今度は左側腹部へと触れて。
抉れていたそこは、もう元通りになり、肌が顕になっていた。
もし、本当に私自身を皆に与えたら、こんなに早く傷が直るのか。
＿＿案外、手入部屋よりも良いのかもしれない。倒れる事が前提になるが。
「……そうだね。凄く、痛かった。…あぁ、山姥切、こんなに酷い痛みと戦ってたんだなって…私のせいで受けた傷を、体感出来て良かったって、思う」
｢…何でだ。痛いのは、たとえ夢でも嫌なものだろ｣
確かに、そうだ。
痛みは知りたくない。感じたくもない。
だけど、
｢半年以上審神者をして…皆が出陣から帰ってくる時、多少の傷なら大丈夫だって、思うようになった｣
刀剣男士は人より強靱な肉体を持っているから。痛みにも強いから。
多少の怪我を負っても笑って帰ってくるから、平気だと。
｢だけど………多少の傷だって、人間(わたし)と同じで、痛いし、辛いし、しんどいよね。山姥切と同調して、改めて痛みを知って、そう認識し直せた。………ありがとう｣

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