チグリジア(創作) (ページ1)

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耳に入ってくる音は僕の鼓膜を激しく震わせる。
「煩い……。」
僕の好きな静寂は僕の人生に存在しやしない。
すべての音は静寂を弔うための道具でしかない。
音が無ければ静寂は生きていられたけれど、それは僕達の存在を否定することと同義だ。僕達は音をたてなければ生きていけない。生命の誕生から消滅まですべてに音が存在する。静寂なんて消滅したあとにしか存在しない。だったら他人の静寂を見たい。僕の人生に存在しないなら他人の静寂を観察したい。
だがら僕の仕事は殺し屋。

部屋の電話が鳴る。
僕が音が出るもので唯一好きなものはこの部屋にある電話。その電話が鳴ると言うことは他人の静寂を観察できるということであり、その電話が存在する限りそのチャンスがあるということである。
仕事仲間は僕を含めて3人。一人は先輩のアンジェラ。恐らく五十代後半。敵を見下す言動が多い。近距離戦が得意。もう一人は後輩のパーティ。恐らく二十代前半。チャラい。遠距離戦が得意。僕達のグループ名は魔天狼。パーティが適当につけたものである。
「仕事。」
「やった。」
この瞬間が最高に好きなのである。
「なんで自ら殺されるようなことするんすかねー。」
「馬鹿だからだろ。」
「わーアンジェラさん直球っすね。」
「楽しいからいいよ。」
「通常運転っすね。」
「それよりアンジェラ、今回のミッションはどんな感じなの。」
「今回は密輸業者を一掃するミッションだ。んで殺る場所は……。」
アンジェラが地図を広げて指である場所を指す。
「でっけぇビルっすね。」
「殺りづらそう。」
「この密輸業者の特殊なところは全員女ってところだ。」
「女……。」
この世で苦手な生物トップスリーに入る女とガッツリ絡むことになるとは気が重くなる。
「あからさまに嫌そうな顔するっすね。」
「というわけで今回の作戦で中心的に動くことになるのはパーティになる。」
「え、俺っすか？」
「このでっけぇビルはホストクラブなんだ。潜入して殺ることになる。」
「うざ……。」
「お前らの演技力を買ってるんだよ。」
「ホストなら余裕っしょ。」
「あなたは通常運転でしょ……なんだかんだ言って演技するのは精神的にくるんだよ……特にこういうのは……。」
「まあまあ。とりあえず明日から潜入して女全員に媚び売るぞ。」
「明日から……最悪……。」
僕は大きいため息を漏らした。