星のカービィの短編集

Give it back soon!!(ドロッチェ) ページ44

カービィがケーキを食べる度に、辺りを見渡す癖がついた。たずねると、盗まれたことがあるからと。あの大食いモンスターに対して、なんて命知らずだ。

「初めまして、お嬢さん」

カービィとのティータイムを終えて夕べの道のりを歩いて帰っていると、目の前に突然大きなネズミが現れた。それは大きくマントを広げて手を伸ばしている。

「いや、初めましてではないか。A？」

何でわたしの名前を知っているんだと顔を引きつらせていると、それはそっと地面に降りて近寄って来た。目を見開いて後ずさると、向こうも近寄る。

「オレのことを知らないとは、かなり落ち込むな……」

やれやれと言わんばかりにハットを深くかぶり直して、はあと大きな溜息をついた。よくよく見れば、このひとは張り紙で見たドロッチェだと気付いた。しかもおたずねものみたいな張り紙だ。気付かないふりをして逃げようとしたけど、がっと手を掴まれる。

「その様子じゃオレを知っているな、しかし逃げるとは悲しいものだ」

いやいやいや、怖い怖い！知らないよ、なんで知人前提の接触なの！？驚いて目を丸くしていると、金色の眼がこちらをじいっと見抜く。色々見抜かれそうで、緊張で心臓がばくばくと張り裂けそうになっていた。

「……ふぅむ？オレが怖い、か……あーあ、可憐な女性を脅えさせるのは趣味じゃないからなぁ」

わたしの手を離したけど、今度は咳払いをして一歩下がった。咳払いがやけに多いような、こほんこほんこほん、何回しているんですか。

「実はカービィと争い合っているうちに、Aを見かけてな……そりゃ、まあ、うん、そうだな」

発言に夢中になっているのを良いことに、そろりそろりと離れていて一定の位置で勢いよく走って逃げた。ワドルディとかけっこしているけど、追い抜くことはできたし足は早いと思う。しかし、目の前にばっと赤マントのネズミが舞い降りた。

「話はまだだぜ。勝手に逃げないでくれ」

今度は若干目が鋭くなって、わたしをじいっと見据えている。怖い、蛇に睨まれた蛙みたいな雰囲気になった。体がぶるぶる震えていて、どうすりゃ良いんだと顔を伏せて目をぎゅっとつむった。

「……調子狂うな……」

ぼそっとつぶやかれたけど、優しく離してくれた。ほっとして目を開けると、帽子とマントを深く整えてそれ以上は何も言わずに去って行った。一体何だったんだと思って、いそいそと帰った。


「さっさと返して欲しいもんだな……オレの心くらい」

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