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私の言葉に、今度は虎於くんが不思議そうな顔をした。


「そうか?会えるなら会わせて欲しいと言ってくる人は多いよ」
『それは、そうかも知れないけど・・・』


言われて気づく。

虎於くんの周りに、会わせて欲しいと言ってくる人が多いということなんだと。

千さんを思い出して、虎於くんのノートに視線を落とす。
丸付けをしながら口を開いた。


『私は遠くから見てる方が、心が落ち着いた状態を保てるから良いかな。近づいて来られると頭の中がギャーッてなって心臓バクバクするから』


それでも慣れれば、というか、千さんの場合は、声のみの推しだったからなのか、そんなに喋らない方なんだと分かってくれば近寄るのはそこまで緊張しないと学習してきたけど。
千さんがよく喋る人だったら、心臓がツラいかもしれない。


「そんな感情になったことはないな」


淡々と返ってきた言葉に、丸付けをしながら、へぇ〜、と生返事をする。
丸付けをする手をピタッと止めて、虎於くんを見た。


『え?ないの?』
「?ああ」
『彼女相手にドキドキするとか・・・それと似てると言えば似てると思うけど』
「・・・ないな・・・」


顎を指で挟むように当てて首を傾げる虎於くん。

本気で好きになった人とか、いないのかな。
そういえば言い寄られて付き合うとか言ってた。
いや、好みはさすがにあるだろうけど。

二の句を告げないで呆気にとられてしまった私を見てか、虎於くんは、何故か落ち着かない風に視線を右へ左へとしてるのに気づいた。

?どうしたんだろう?
自分が本気で人を好きになったことがないのに気づいたとか?
あれ?私、虎於くんを傷つけちゃった!?

申し訳ない気持ちになると同時に、謝ろうと口を開きかけた時だった。


「あの、さ。そういう感情になるって、普通あることなのか?」
『え?』


謝ろうとしたのに質問されて、一瞬思考が止まる。
虎於くんは、言いにくそうに再び口を開いた。


「だから・・・ドキドキとか、そういうのって・・・」


質問の意図を理解して、納得する。
虎於くんがもごもごと言いにくそうにするので、言い終わらないうちに私の意見を口にした。


『そんなことないよ。世の中の平均、っていうデータはあるだろうけど、そういう感情が起こるのは人それぞれ早さが違うから、どれが普通だとか正解だとかはないと思うよ』

「そ、そうか」


虎於くんがホッとしたような顔をする。
それを見て、私も傷つけたわけじゃなさそうだとホッとした。

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作者名:miz | 作成日時:2024年2月9日 0時

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