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“それなら”って何。“それなら”って!
思わず心の叫びをそのまま口に出しそうになって、すんでの所で止まる。
けれど、もどかしい気持ちが和らぐことはなかった。
『じゃあどうしてお兄さんは留学出来たの?』
「10年前の方が安全だったし、後継者だから・・・」
『10年前はともかく、後継者しか留学出来ないなんてことないよ』
「10年前と違うだけで、理由は充分だ」
虎於くんが煩わしそうな表情になり、思わず言葉が出なくなる。
「以前、Aが言ってたな。勝手に自分の都合の良いように解釈したり、って。まさしく今のAがそうじゃないのか?俺が国内の大学で良いって言ってるのに、Aが納得しないだけだろう」
それを言われてしまえば、本当に何も言えない。
虎於くんが、海外の大学を受けたいって言ってた時、その理由を話してくれた時は、本当に楽しそうだったのに。
だから、私が、諦めて欲しくないだけといえば、それまでなのだ。
悔しい。
虎於くんが、虎於くんの本心を大事にしていない風なのが。
『・・・そうだよ。虎於くんが本気で留学したいって、楽しそうに言ってたように見えたから。希望校を国内に変えるっていうのが、しんどくないわけないって思ったんだよ。それが解釈違いって言われるなら、もう私に言うことはない』
ほっとしたような息づかいが、虎於くんから聞こえる。
ぐっと胸の奥から込み上がるものが、鼻を刺激する。
泣くつもりはない。
ズルい人みたいで嫌だから。
それでも涙が込み上がりそうで、虎於くんの方を向けずに俯き加減のまま口を開く。
『・・・虎於くんに、自分を・・・自分の気持ちを、大事にして欲しかっただけなんだよ・・・自分を諦めないで欲しかったの』
本当に、それだけだ。
目を閉じて呼吸を整える。
顔を上げると、虎於くんは眉を下げて困ったような表情をしていた。
『ごめん、余計なこと言ったね。ーー国内の大学だっけ?どこでも受かりそうだけど、いくつかピックアップして、次の時に資料渡すね』
テキスト類を鞄にしまい、笑顔を作る。
虎於くんは驚いたように目を見開き、ぎこちなく頷いた。
家までの帰り道、虎於くんの家に弟と久しぶりに来た時を思い出す。
あの時感じた、流れに任せようとか少し諦めが時々見えるような、というのは当たっていたのだ。
“自分の気持ちを大事にしてほしかっただけ・・・”
自分の言葉を思い出し、妹もそんな気持ちだったのかなぁ、と夜空を見上げた。
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作者名:miz | 作成日時:2024年2月9日 0時