421 ページ15
思えば、私が虎於くんに言ってることは、私のエゴであるのかもしれないのだ。
私と百瀬くんが別れたことに対して妹が泣きわめいても、私と百瀬くんで決めた後だからどうにもならないのと同じように、私がどんなに虎於くんの進路に何かを言っても、虎於くんの進路は家族と本人にしかどうにもならない。
だとしてもーー虎於くんが夢を諦めるのにはまだ早いと思う。
虎於くんは、これからなのだから。
ただそれは、虎於くんが諦めないことが前提の話だ。
虎於くんが諦めてしまえば、私が出来ることはなくなってしまう。
今日の勉強が終わると、虎於くんにもう一度、進路の話を振ってみた。
『虎於くん。本当に、国内の大学に希望を変えていいの?』
「え・・・」
虎於くんの顔から、表情が消える。
その話をしたくない、という感情が、ビシバシ伝わった。
でも家庭教師としては、生徒の希望を叶えてあげられるように補助するのが当然だと私は思うから、引き下がるわけにはいかない。
『話を振られたくないのは・・・自分の気持ちが留学にあるからじゃないの?』
「・・・!」
ハッと息をのむ様子が見て取れる。
自分で本心を分かってるんだ、虎於くんは。
それでも、反対されてるなら諦めようとしてるんだ。
『虎於くんが諦めないなら、私も出来る限り協力する。虎於くんが本気だって、受かる確率が高いんだって、ご両親にも説明するよ』
「だからそれは・・・!」
勢いよく顔を上げて言うと同時に、ハッとしたように動きが止まる虎於くん。
戸惑うように目線を泳がせてから、ゆっくりとその口が開いた。
「Aは・・・その、俺に留学してほしいのか?」
『うん・・・、・・・うん?』
頷いた後、言われた言葉に首を傾げる。
何かが違う。
『私の気持ちは、虎於くんの進路には関係ないでしょ?関係あるとすれば、虎於くんが行きたい大学に行って欲しいとは思ってるけど』
「・・・いや、俺は・・・」
また戸惑うように右往左往する目線と、きゅっと閉じる口。
なんで虎於くんは、こんなに困ってるような顔をするんだろう。
行きたい所に行けるように協力する、と言われて困るって、どういうこと?
理解しようと必死に考えるも、勉強以外での頭はそこまで良くないので答えが出ない。
「・・・それなら、俺は留学しない。物騒だって父さんが言うんだから、物騒なんだろう。危ないことはしないさ」
虎於くんが、静かに淡々と、そう言った。
581人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:miz | 作成日時:2024年2月9日 0時