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「駄目だった」


虎於くんの家に着くなり言われた言葉に一瞬キョトンとした。

玄関の所で、待ってましたと言わんばかりの態度でそう言ったのは、もちろん虎於くんだ。


『え?大学?』


進路の話?と首を捻りながらスリッパに履きかえる。
虎於くんが静かに頷いた。

2人揃って並んで歩く。


『駄目だったって、なんて言われたの?』


虎於くんにチラリと視線をやると、少し目が合った虎於くんがスッと目を伏せた。


「・・・海外留学なんてとんでもない、ってさ。最近物騒だから、日本の大学が1番だ、って」
『会社の手伝いをしたいって言えた?』
「言った。でも考えなくていいって。好きなことをしろって」


うん?
好きなことをしろって言うのに、海外の大学を受けたいっていう虎於くんの希望は通らないの?

明らかな矛盾に首をかしげる。

いや、逆か。
会社の手伝いをしなくていいから、日本の大学に行って好きなことをしろって事かな?
虎於くんの希望が、心からのものだとは思われてない、ってことだ。

部屋に入ってから虎於くんが机に向かう。


「志望校変わるから他の大学決めないとな。どこならいい?」


はい、と宿題用プリントを渡され受け取るも、虎於くんの言葉に思わず目が丸くなった。


『え!?諦めるの!?』
「反対されてるし会社のことを考えるなって言われるなら、そうするしかないよ」
『いやいやいや、虎於くんの気持ちは?やりたいことがあって、そのために必要な学力も申し分ないんだから突き進むべきでしょ?』


理解できなくて頭を横に振る。
やりたいことが中々決まらなかった私とは、全く違う。
やりたいことがあるなら、そのために必要な事が揃っているなら、叶えるのが1番だ。
夢よりも目標と言えるものに近いのだから尚更。


『やりたいことを、怪我とか事故とかで志半ばで敗れた人だっているんだよ。それに比べれば虎於くんは断然恵まれてるよ?』


大神くんと千さんと、百瀬くんが脳裏に浮かぶ。
デビューが出来なくなった人たち。
サッカー選手になれなかった人。

見てきたからこそ、諦めないで欲しいと思ってしまう。
生徒が志望校を変える理由が親の反対だなんて悲しいから、というのもある。


『諦めないで。虎於くんが言うのが難しいなら、私が虎於くんのご両親と話す』
「いや、いいよ。どうしてもやりたかったことじゃないからさ。ほら、勉強しよう」
『そ・・・っ』


そんなの嘘だ。
しかし、そう口に出来ず勉強を始めるしかなかった。

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作者名:miz | 作成日時:2024年2月9日 0時

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