【アイナナ】 vale Side百 (ページ9)

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中学最後のサッカーの大会も終わり、受験に専念することが決まったある日。
姉ちゃんが夕飯の時に、もぐもぐ口を動かし終わると口を開いた。

「お母さん、ゴーグルと座れるくらい大きい浮き輪ってどこだっけ？」

姉ちゃんが母ちゃんに視線を移す。
母ちゃんがオレのご飯のおかわりをつけてくれてから首を傾げた。

「どこだったかなぁ？思い当たるところ見てみるわ」
「姉ちゃん、プール行くの？」
「うん。Aたちと」
「いーなー」

オレも遊びたい。受験生だけど。息抜き(と称した勉強からの逃げ)で。
しかもAさんとプールって。

･･････あれ？Aさんって運動音痴とか言ってなかったっけ？泳げんのかな？

「浮き輪邪魔にならないか？」

父ちゃんが湯飲みを手に取って姉ちゃんに聞く。
姉ちゃんはおかずに箸を伸ばしながら答えた。

「友達が持ってくるの。1人で使うんじゃ寂しいかもしれないじゃん」

あ、やっぱりAさんのことだろうな。
思ったけど言わず。
父ちゃんは、楽しんできなさいと言ってお茶を口にした。

･

「百、部屋片付けときなさいよ」
「分かってるよ！」

姉ちゃんが夏季講習に行くから、Aさんと初めてオレの部屋で勉強をすると決まってる2日前。

そのために部屋を片付けなきゃなんないのだ。
テスト前とかだと逃げなのか気になったりして片付けるんだけどなー。
まあこういう時でもないと片付けないから、ちょうどいいのかもしんない。

部屋を片付けてると、靴下だの漫画だのゲームソフトだのが発掘される。
母ちゃんが畳んでくれた洗濯物も山積みになってる。

漫画やゲームに時々心動かされてハッとして片付ける、という実に非効率的でお約束な片付けは、1日2日の受験勉強の片手間じゃ、終わるはずがなかった。

行ってきまーすと言う姉ちゃんの声を耳にしながら、自分の部屋を見て深く溜息をつく。
物別に分けて少しは片付いたけど、物が多いせいか視覚的にいまいち片付いてるようには見えない。

こうなればクローゼットに詰め込んじゃおう！
それで見えなきゃ何でもいい。

ドカドカ詰め込んでバタンと扉を閉める。

ちょうどAさんもやってきて玄関へ急ぐ。
この時、本のカバーが扉に挟まっていたことに気づかなかった。

Aさんが来て、いつものように勉強を教えて貰う。
苦手だったものが解けるようになるのは楽しい。暫く経って似た問題が解けるかどうかで身についてるかどうかを判断するのが良いよと言われた。