【アイナナ】vale5 (ページ40)

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百瀬くんが慌てたように、服の袖で目元をゴシゴシ拭く。

「ごめん！オレめっちゃカッコ悪いね！」

目元に袖を当てたまま、明るめな声で百瀬くんが言う。
涙が止まらないんだろうことは予想できた。

『カッコ悪くないよ』

そう答えながら首を横に振るも、百瀬くんも首を横に振る。

「カッコ悪いじゃん。彼氏なのに･･･」

意外な答えに少しビックリした。

『百瀬くん、そういうの気にするんだ』
「するよ。好きな人の前じゃ格好良くいたいもんだし･･･」
『百瀬くんは格好良いよ？』
「そ、それは嬉しい！けど･･･今カッコ悪いじゃん･･･」

百瀬くんが顔から袖を下ろしたから、ショボンとした顔が見えた。

『百瀬くんから見て格好悪くたって、私から見ても格好悪いとは限らないと思うよ。それに百瀬くんが泣きたい時は、1人で泣かれるよりも私の傍で泣いてほしいって思うかな』

「･･･なんで？」

百瀬くんの声が、少しかすれてるのに気づく。
百瀬くんの顔を見ると、やっぱり今にも泣きそうな目で私を見ていた。

『･･･弱いとこも見せあえる付き合い方って、理想だと思うから。･･･その方が、信頼されてる気がするし、そういうとこ見せられたらもっと好きになると思う』

次第に照れや恥ずかしさも感じて、思わず笑みが出る。
百瀬くんを見ると、さっきよりも目一杯涙をためていた。

百瀬くんが俯いて私の方に体を向ける。
おでこが、私の肩口にトンと乗った。

「･･･っちょっとだけ、肩貸して･･･」

涙声の百瀬くん。

『うん。いくらでも』

少しすると百瀬くんの肩が震えてるのに気づく。
そっと背中に手を回して、ゆっくりとさすった。

「･･･っ」

すぐに、堪えきれないといった風に嗚咽が聞こえてくる。

夢を自分で持たない私には、夢が破れそうな気持ちはわからない。

でも充分だ。

痛いくらい、百瀬くんの気持ちが伝わってくる。

胸が詰まりそうな想いにかられながら、百瀬くんが落ち着くまで背中をさすっていた。

・

公園内のトイレを出て少しすると、百瀬くんもトイレから出てきた。

「ありがと･･･タオル･･･」

グスッと鼻を鳴らしながら、鼻声で私のハンドタオルを差し出してくる。
百瀬くんは顔を洗ってきたのだ。

少しだけ湿ったハンドタオルを、微笑みながら受け取った。

まだ目元がほのかに赤い百瀬くんと手を繋ぐ。
百瀬くんはまだ恥ずかしいのか、泣いた名残か、鼻も赤い。