【アイナナ】vale5 (ページ38)

今日:36 hit、昨日:19 hit、合計:27,156 hit

237 ページ38

試合が終わって次々人が帰っていく。
みんなに会う？とも帰ろうか？とも言えず、俯き加減の百瀬くんがゆっくり腰を上げるのを、ただ黙ってついて行った。

座っていた客席の一番上、百瀬くんがフィールドを振り返って見下ろす。
フィールド内は、次の試合の準備がされていた。

客席の前の方に視線をやると、瑠璃の表情がギリギリ目視できる所に見えた。

ご両親もいる。来てたんだ。
痛々しそうな顔。

自分のスマホが震えて、画面を開く。

瑠璃百のこと、Aに任せる。先に帰るね
Aわかった。何もできないかもしれないけど
瑠璃そばにいるだけで良いことだってあるよ

うん、と頷くスタンプを返してスマホをしまった。

『会場の外、出よっか』

やっとのことでそう口にすると、百瀬くんは意志のないような瞳で私を見ると、黙ってコクンと頷く。
ゆっくり、出入り口に向かって歩いた。

知り合いにも会うこともなく外に出ると、百瀬くんがポツリと呟くように口を開く。

「･･･1人になりたい･･･」

普段私からはもちろん、百瀬くんの口からもあまり聞かない言葉に、ちょっとびっくりして目を見張る。
百瀬くんが、一瞬、しまったと言いたげな顔をした。

「ごめん！Aさんが邪魔とかじゃなくて！」
『ううん。そういう気分の時、誰でもあるよね』

首を横に振る。
でも･･･と言葉を続けた。

『でも･･･ごめんね。今の百瀬くんを1人にしたくない。･･･離れててもいいから、どこかに行くなら一緒に行かせて』

百瀬くんは何か言いたげな表情の後、目を伏せる。
すぐに、わかったと頷いてくれた。

本当は1人にさせてあげるのが良いのかもしれないけど、まだ足も不自由だし。
それに今の状態の百瀬くんを1人にしたらいけない気がする。

でもこの足で百瀬くんが1人になれるとこで、私が遠くから見守れるとこってどこだろう？

『行きたい所ある？』

参考までに聞いてみると、百瀬くんは顎に手を触れて考える仕草をした後、口を開いた。

「そこの公園、行ってもいい？」

百瀬くんが指さした公園は、住宅街の所々にあるような公園ではなく、夏場までは青々と緑が生い茂った、広い公園だった。
所々葉の色が紅葉してる銀杏や楓が見られる。

確かここなら静かな場所もあった。

頷いて、百瀬くんと公園へと向かった。
設置されていた公園内のマップを貰ってから、他愛無い話をしながら舗装されてる道を進む。