【アイナナ】 vale 2 (ページ9)

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ウェットティッシュと割り箸を渡す。
笑顔で受け取った百瀬くんが手を拭いたあと、パキンと割り箸を割った。

「めちゃめちゃ美味しそうじゃん！」
『おにぎりはうまく三角になんなかったけど』
「味があっていいよ！いただきます！」

最初に唐揚げをパクリ。

「え！美味しい！！本当にAさん作ったの！？凄い！！」

パアッと笑顔の百瀬くん。
しかしその言葉に、おにぎりを口にしようとした私の手が止まった。

本当に、って言ったってことは、私が学校の調理実習で失敗したことを多分知ってるんだよね。
失敗しなかったことなんて、今の高校ではなかったから。まあ元々料理音痴なわけだけど。

中でも一番酷かったのは煮物だ。

恐る恐る、青ざめて百瀬くんを見る。

『百瀬くん･･･』
「うん？」

もぐもぐ嬉しそうに口を動かす百瀬くんは、おにぎりを手にとってまた頬張る。
キョトンとしてるのは丸わかりだ。

『瑠璃に聞いた？調理実習の話』
「ん？うん･･･？」

頷きながら口を動かす百瀬くん。
ごくんと喉が鳴った後、百瀬くんが“あっ”と小さく声を上げた。

「い、いやいや、去年の話だし！肉じゃが焦がしたとかオレも普通にやりそうだし！中まで火ぃ通ってないとかも普通にあるから！」
『レシピ通りにやったのに、中火とか弱火とか分かりにくくて違って、汁が早くなくなっちゃったんだよ･･･』
「そうなんだ？オレも料理できないから、めっちゃわかる！でもほら、今日の作ってくれたお弁当、めっちゃ美味しいし！キンピラもピーマンも上手くできてんじゃん！さすがAさん！努力家だよね！」
『それ、お母さんが作ったやつ･･･』
「ええ！？･･･っ、おにぎり！美味しいよ！」

焦りながらも頑張ってフォローしてくれようとする気持ちが嬉しい。
少しだけ落ち込んだ気持ちが回復してくる。
良かった、と笑うと、百瀬くんもホッとしたような笑顔を見せてくれた。

「あと何作ったの？」
『ええ？･･･あまり上手じゃないやつ』
「それ、オレ言ったら傷つくのAさんじゃん。言いたくない」

百瀬くんが口を尖らす。
本気で怒ってないようだけど、こういう顔は初めて見る。
そして、言ってることが優しい。

自然と口角が上がる。

『あのねー･･･』

教えた卵焼きと肉巻きは、百瀬くんが笑顔で食べてくれた。

お腹いっぱいになって、のんびりお茶を飲みながら休憩する。

「美味しかった〜」

百瀬くんが、ぽわーっと和やかに目を細めた。