【アイナナ】 vale 2 (ページ38)

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百瀬くんが、ふっと頬を緩めたのに気づいて見上げた。

『ん？』
「あ、ううん。もうちょっとで駅だから頑張って」

心の中で首を傾げるものの頷く。

頑張ってと言われても、そんなに窮屈ではない。
いつもより楽な位ーー･･･

そう思ったら、緊張で狭かった視界がみるみるうちに広がっていった。

百瀬くんが壁ドンとまではいかないものの、近いような事してくれて、私の周りに少し空間ができてる。
漫画みたいでベタだけど、そう思うよりも早く胸が熱くなる。

『百瀬くん』
「ん？」
『ありがとう』
「ん？何が？？」

首を傾げてキョトンとしてる百瀬くんは、本当に私が何にお礼を言ったのか分かってないみたいに見える。
自然にやれる人なんだ。
緊張が解れたせいか笑みが込み上がってきて、何でも、と笑った。

駅につくとICカードにチャージしてから、百瀬くんと歩く。

花火大会の日の待ちあわせの時間を決めてから、練習試合に勝ったことや、合宿が厳しかったことを話してくれる。
全部嬉しそう。

『百瀬くんっていつも嬉しそうで楽しそうに話すよね。実際そうなんだろうって思うけど』

話に区切りがついたところでそう口にすると、百瀬くんが思い切り頷いた。

「楽しいこといっぱいだから！ムッとすることもたまにあるけど、お互いに話したら解決することもあるしさ。それぞれ理由があんだなって最近余計に思うようになってきた」
『理由？』
「ちょっとしたすれ違いとか思い込みとか。言葉が足りなかったり顔に出ないだけだとか。そういうの誰かしら一度は経験してそうだと思わない？」
『あ、なんとなくわかる』

私も何度となくあるから。
表情に出ない方で私の身近と言えば、弟かなと考える。

『もしかして弟と何かあった？』
「うん？何もないよ？･･･ああ、弟は表情筋柔らかくないだけで、結構顔に出ると思うから安心して」
『さすが百瀬くん･･･』

姉妹でも弟の表情の変化に気づかないことも多いのに、分かっちゃうんだ。

感心していると、百瀬くんが顎に手を当てて難しそうな顔をしていた。

「最近様子がおかしいかもしんないと思うのは、姉ちゃんかな。普段から話してるけど、様子が変なのは気のせいって言われる。Aさんなんか心当たりない？」
『心当たりっていわれても･･･夏休みは一度も会ってないから何とも。終業式の時はいつも通りだったよ。いつからおかしいの？』
「そっか。ここ一週間位だもんな」

百瀬くんと一緒に唸る。