179 〜百side〜 ページ29
そうか。オレ･･･
「･･･バンさんが、オレのこと嫌だと思ったっておかしくないのに、いっつも優しく接してくれて、ありがとうございました！」
頭を下げる。
怖かったんだ。
ずっと
バンさんから嫉妬されてたんじゃないかと思うのが。
嫌だと思われてんじゃないかって思うのが。
それが、今も続いてるんじゃと思うのが。
だって、誰にでも嫉妬心は生まれると思うから。
でも、これはオレが背負うべき立場だから。
誰が悪いわけじゃないけど、Aの恋人として、これからは夫として、投げかけられるだろう感情だから。
込み上がりそうになるものを必死で抑える。
静かだからか、バンさんの息を吐く音が聞こえた。
「百くん」
いつものように優しく、響く声。
ゆっくり顔をあげると、バンさんは優しく微笑んでいた。
「百くんはいい子だよ。嫌だと思ったことなんてない」
「バンさん･･･」
バンさんがニコッと笑う。
「って言っても多分信じてくれないかも知れないから言うけど」
「えっ？」
何を言われるんだろうってドキッとして胸を押さえる。
少し寂しげにバンさんが微笑んだ。
「実はAと再会してしばらくしてからなんだよね、気づいたの」
胸の奥がズキッとする。
ユキから聞かされてオレもわかってたけど、本人の口から肯定の言葉を聞くとずっしりと重く感じる。
バンさんは軽い口取りで続けた。
「Aが百くんを好きなのは初めから知ってたし、自分のものにしたいって言うほどの熱い思いはなかったよ。そこはユキや大和くんとは違うかな」
「じゃあ･･･Aに言うつもりは･･･」
「あはは、ないない。アイナナ警察2の辺りに、けじめはつけたからね」
既に終わってるんだよ、とバンさんが目を細めて微笑む。
そこには、オレを気遣ってくれてるんだという素振りは感じられなかった。
「百くんが好きだよ。もちろんユキもAも。だから、嫌だと思ったことはないよ」
キュウウと心が締め付けられる。
「百くんが俺を嫌だと思ったことはあるかもしれないけど」
「！？ありません！そんなの天地がひっくり返ったってありえません！！」
「そう？」
クスクス笑うバンさんに、必死で首を縦に振った。
これからもよろしくねと言って笑顔で手を振るバンさんに、聞いてくれてありがとうございましたとお辞儀をして手を振り返す。
バンさんの車が見えなくなるまで見送って自分の車に乗る。
堪えて溢れそうだったものが、目からこぼれ落ちた。
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作者名：miz | 作成日時：2021年11月8日 12時
