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『ホームシック・・・?』
ホテルの大浴場を有料で借りた日(と言っても支払いは経費でおちるんだけど)、ナオコさんが一日中眠そうなのを見かねて聞くと、子役の子が夜寝たまま泣くんだと教えてくれた。
「多分ね。でも本人は覚えてないのよ。寝たまま泣いて起きないからね」
『そういやまだ5歳だもんね。役の時とかしっかりしてるから時々忘れちゃうなぁ』
「私の姉・・・っていうかあの子の母親が体が弱い方でね、あの子、しっかりしなきゃって思うみたい」
温泉の中を楽しそうに泳ぐ女の子を、愛しそうに見ながら言うナオコさん。
まるで本当の娘に向ける目に見える。
私も女の子に目を向けた。
『しっかりしなきゃって思ってしっかり出来るって凄いことだと思うけど・・・』
だって5歳だよ?
大人ですら難しいこともあるのに。
「業界にいると世間知るから余計だろうね。・・・私が業界にいたし、私の目にも届くところが芸能界しかなかったって理由でもあるから、ちょっと可哀想だとも思うけどね」
ナオコさんの言葉を聞いて、以前になにか言いたげだったのに口を閉ざされたような気分だったのを思い出す。
そうか。
姪って理由で業界に入った子なんだ。
よくあると言えばよくあることだ。
親が業界にいるから興味持ったとか、たまたまいたから出たら人気が出たとか。
運も実力の内だけど。
でもそれをナオコさんは後悔してるのか申し訳ないと思ってるのかな。だから前に温泉行った時、言いにくそうにしてたのかも知れない。
それに加えてホームシックだと思えるほどの連日の夜泣きなもんだから、心が滅入ってさらに眠くて当然だ。
『ナオコさんのお姉さんは・・・』
こっちに来れないのかなと聞こうとすると、女の子にお風呂あがろうと言われてタイミングを失う。
女の子の着替えを手伝ったりしてる時に、ナオコさんが、来れるなら来てくれるようにとお姉さんに連絡したと教えてくれた。
「そういえば明日は夕方から私たちオフだけど、Aちゃんはエレクトーン弾きに行くんだっけ?」
『ああ、うん』
夕方オフなのは、犯人役の同窓会メンバー役の女優さん1人と被害者役の2人以外全員だ。
監督と脚本家が言うには、映画の台本が全部出来た最初の時はトウマが犯人役の予定だったんだけど、原作の人から直しが入ったらしい。
脚本家も原作の人もお互いにプライドがあるけど、いいものを作りたい気持ちは同じだから、結果的には2人揃って脚本を仕上げたと言っても過言ではない。
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作者名:miz | 作成日時:2021年9月6日 8時