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「それにしても僕が納得いってない所がわかるなんて、さすがA」
千が言いながら楽譜に貼ってる付箋を指先で取って、そのまま扇ぐようにヒラヒラさせる。
どうやら、ここは直し必要ないでしょ、と言いたいらしい。
見れば、そこは納得いってない所ではない事がわかる。
何でもない事のような表情で千の指先からピッと付箋を取って、元あった所に貼り付けた。
百とおかりんの顔が、右へ左へと付箋の行く先を向いている。
『10年以上の付き合いだよ。千だって私が納得しない部分わかるでしょ？』
「分かるのと、いい流れかどうかは別」
何度かの攻防の末、千が無表情で付箋を取ると、丸めてポイッとノールックでゴミ箱へ投げた。
「･･･！！めっちゃイケメン！」
ずっと付箋の行く末を見ていた百の方をチラッと見ると、キラキラした目と存分に上がった口角。
ちゃんとゴミ箱に入ったらしい。
けども私としては･･･
『ここ、もうすこし重い感じがいいと思うんだけど。湧き出るのを押さえ込まれてるような』
「変えない」
即答･･･
目の前の楽譜を捲って、千が納得いってなさそうな箇所の１つを指差す。
『そしたら千が納得いかないここは、押さえ込まれたものが勢いよく湧き出るスピード感を出せば、要求されてる雰囲気の曲に近いと思うんだけど』
千の表情がフリーズした。
と思えば、楽譜を見て考え込んでるような表情。
少しすると、目線だけ私の方に寄越して、やっぱり少し納得いかなそうな顔をされた。
「･･･A、こういう重厚感のある曲、好きだよね」
う。
それは確かに否定できない。
何年か前に自分で作詞作曲したのも、そういう傾向だったし。
私の表情が物語っていたのか、千が小さく息を吐く。
呆れてるのかどっちでもいいと思ってるのか分からないけど。
「･･･まあ格好いいのはわかるけどね」
そう言った千は微笑んでくれた。
「さ！片付けして下さい。そろそろ仕事のお時間ですよ！」
おかりんが眼鏡をクイッと上げた。
千が楽譜をファイルにしまって立ち上がる。
私もつられるように立ち上がった。
「まあ、頭の隅にでも入れておく･･･と思う。作曲する時」
『それ、忘れる時に言うやつじゃん･･･』
「そんなことない、そんなことない」
怪しい。
なんてったって千だしな。
「大丈夫！ユキは音楽の事なら覚えてるって！」
百の笑顔に、そう言えば昔から千は、他人よりも曲を覚えてる人だっけなと思い直して、微笑みながら頷いた。
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作者名：miz | 作成日時：2021年7月3日 9時
