245 〜天side〜 ページ47
「すみません。」
映画館への途中、街中で声をかけられてギクッとする。
ボクだってバレた？
いや堂々としていれば良いはず。
内心ドキドキしながら、声をかけてきた女性に笑顔を向けた。
「何でしょう？」
「君、芸能界に興味ない？」
本当にボクだと気づいていないのか、女性が名乗りながら名刺を差し出してくる。
「申し訳ありません。人との待ち合わせに間に合わなくなりますので。ご縁があればまた。」
一応受け取って会釈して去る。
呼び止められたけど、やっぱりボクだって気づかれてないみたい。
･･･凄い。
肌の色と髪の毛の色で、ここまで変わるんだ。
映画館に着くと、Aさんが食べるとしたら塩味のポップコーンだと思って、それを１つと自分の飲み物を買った。
上映開始5分前に席に着く。
Aさんはまだ来てない。
さっきポップコーン買う時も周囲にはいなかったし、遅れてるのかな。
フッと照明が落ちると、スクリーンにCMが映る。
2つめのCMの途中で隣に人が来て、Aさんだと思って顔を上げた。
「･･･え･･･」
思わず漏れた声に、パッと口を押さえる。
スクリーンの明るさで、Aさんが微笑んだのがわかった。
『ごめん遅くなって。』
ひそひそと話すAさんは、いつもの恰好じゃない。
カジュアルな帽子に眼鏡。
立ち姿は明らかな男性。
変装するとは思ってたけど･･･
呆れ半分怒り半分。
以前、Aさんが連ドラ演じた男装女子の役の時よりもボーイッシュなAさん。
男装なんて聞いてない。
髪の毛また切ったの？
デートなのに。
もの申したい気分満々なのに、映画館の中だから言えない。
もどかしさで口をパクパクするだけ。
あとで抗議しよう。
「ポップコーン買ったの？」
『うん。キャラメル。』
「･･･キャラメル？どうして。わざわざ甘いの買ってまで食べないでしょ？」
『天はキャラメルだろうなって思って･･･天は？』
「Aさんが塩味好きだと思って･･･」
お互いにひそひそと話しあって見合う。
同時にクスッと笑って首をすくめた。
１つのポップコーンカップを２人で食べるのも良かったけど、お互いに相手を思っての結果なら、１つずつ食べるのも悪くない。
ポップコーンだけ交換して、スクリーンに集中した。
エンドロールが流れ始めると、ちらほら席を立つ人たちが目に入る。
ボクらの周りの人たちも席を立つ気配がした。
「ねえ、この髪の毛切ったの？」
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作者名：miz | 作成日時：2020年12月22日 9時
