244 〜天side〜 ページ46
『楽しいと思うけど･･･』
「楽しくはない。」
まだ何かを紙袋から出そうとするAさんの手を止めて、ワンピースとレギンスを袋にしまう。
持って帰らせようとしたけど、念のためと言ってAさんは紙袋を置いていったのだ。
けど部屋に持って行った時に気づいた。
袋の底に、1Dayのヘアスプレーと、肌の色を少し濃くするフェイスクリームが2本ずつあった。
スプレーは完全なブラックと、ブラウンに近い黒。
フェイスクリームはAさんがヤスさんの時に使っていたのと同じ物と、それより少し濃い色のドーラン。
仕事でよく使うような物だ。
みんなの前で出さなかった所が意地が悪い。
いや、途中で出させなかったのはボクだけど。
しかもご丁寧に
メッシュ入れたいなら手持ちので入れてね。
ある程度長い時間だから、ドーランだと肌がきついかもしれないから、私のが肌に合えば使って。
最終判断は任せる。
というメッセージカード付き。
ほんと、ボクの性格わかってる。
だから、本当は感謝すべきところなんだろうけど。
ていうか陸がやったCMの、1Dayヘアカラーも持ってることまでバレてる。
前世の記憶だの何だのなくたって、充分色々知ってると思うけど。
「まったく･･･女装は良い案かもしれないけど、楽しいとかって･･･」
はあ、と息をもらすと、龍が“出来たよ”と声をかけてくれた。
「楽は天の姿見て笑ったけど･･･帽子も眼鏡もするなら、ちょっとやそっとじゃ天って分からないと思うよ。だから･･･楽しんで来たら？折角のちゃんとしたデートだろ？」
龍の言葉が心の奥を刺激する。
Aさんが、楽しいと言って笑っている姿を想像すると、自然と頬が緩んだ。
「･･･うん。楽しんで来るよ。ありがとう。」
「おい天、写真撮ろうぜ。」
ヒョコッと楽が笑顔で洗面所に顔を出した。
「嫌。」
「肌の色も髪の色も、龍に近いじゃねえか。」
「だから何。キミも同じようにする？」
「そういう意味じゃ･･･」
「そうかあ、俺に近い色か。嬉しいな。」
楽が言い掛けたけど、龍の笑顔で2人とも毒気が抜かれる。
そこまで嬉しそうにされたら、落としにくいでしょ。
終わったら落とすけど。
髪の毛が乾くのを待って、帽子と眼鏡をする。
楽もやってみる？と笑う龍と、遠慮しとくと苦笑する楽を背に、Aさんとの待ち合わせの映画館へ向かった。
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作者名：miz | 作成日時：2020年12月22日 9時
