239 〜天side〜 ページ41
「記憶が塗り替えられてるって事？」
『ちょっと違う。動機が、自分か周囲に都合のいいようになってる感じかな。よくあるでしょ？過去は美化されるっていうやつ。似たようなものだよ。』
Aさんがはにかむように笑った。
笑い事じゃないだろうに。
自分の記憶が勝手に変わってるなんて、ちょっとしたホラーでしょ。
理解できないことが悔しい。
その気持ちが表情に出てたのか、ボクに振り向いたAさんが吹き出すように笑う。
『天、納得いってないって顔してる。』
「だから何。」
『初恋は美化されやすいとかも聞くでしょ？』
「ボクは美化されてないよ。」
なんて言ったって、ボクの初恋の人は腕の中にいるんだから。
そう思ったところで気づく。
「Aさんの初恋は百さんじゃないよね。美化されてるの？」
過去に振られてばかりだったと聞いた。
なら百さんじゃない。
でも誰だとしても美化されてたら嫌だな。
それでも今はボクがいいと言って欲しいと思う。
初恋がボクじゃない事はわかってるけど。
Aさんがキョトンとした後、優しく微笑む。
ボクの手をほどいて向き合うと、Aさんが背伸びして、ボクの頭を撫で始めた。
「･･･っ、何･･･」
恥ずかしいのと、子供扱いされてそうなのが嫌なのとで、Aさんの腕を取って下げる。
Aさんは変わらない優しい笑みで口を開いた。
『悲しそうな顔してたから、つい。』
「つい、で子供扱いみたいにしないで。その年上ぶった笑顔もやめて。」
『年上だけど。』
ウッと声が詰まる。
『別に子供扱いしてないよ。･･･天って、過去は過去って言い切る割に、割り切れてない部分が結構あるよね。』
更に痛いところをつかれて、ぐうの音も出ない。
Aさんがフッと笑った。
『･･･初恋は小学生かな。もう名前も覚えてないんだけど。でも･･･美化される事はないよ。』
「覚えてないから？」
『ううん。告白して振られた次の日、言いふらされてたんだよね。･･･もしかしたら、仲のいい友達だけに言ったつもりが、その人の意志とは関係なく広がったとも考えたけど･･･』
「それはちょっと、お人好しすぎるんじゃない？」
名も知らない相手への怒りを隠すことなくピシャリと言うと、Aさんが苦笑した。
『見る目なかったんだよね。中身ちゃんと知って好きになったのは多分、百かな。でも男の人としてじゃなくて、人としての憧れ。･･･まあ、天に対しても憧れも尊敬もあるけど。』
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作者名：miz | 作成日時：2020年12月22日 9時
