236 〜天side〜 ページ38
「いやー、それにしても天、よくAの前世の話、すぐ信じたね！」
千さんの家でお風呂から上がった時、百さんが興奮したように言った。
「まあ、別に信じたのとは違いますけど。」
「えっ！？信じてないの！？」
「信じてないわけでもなくて･･･」
どういう事？と不思議そうな顔の百さんを見て、コップ一杯の水を受け取ってからソファに座った。
「出逢った時からAさんは色んな事を知っていましたから。ボクらの拉 致事件の時のGPSも、本当は知ってたからなんだというのも今回わかりましたけど･･･。･･･まあ、嘘をついていた事は問題ですが、Aさんの背景に納得した、っていうだけです。別に前世がどうなんてボクにはどうでもいい。」
「どうでもいい･･･？」
千さんも不思議そうにボクを見る。
「そんなものに振り回されて怯えるなんて冗談じゃない。ボクはボクが選んだ道を通ってきたつもりです。Aさんの前世の記憶だろうが頭の中の世界だろうが、そんなものにくれてやる人生はありません。」
言い切ると、百さんがポーッとした。
「何それ･･･天、めっちゃ格好いい･･･」
「僕も天くんの言いたいこと分かるよ。」
千さんが百さんの隣に座った。
「僕が知った時、僕が今まで生んできた音楽が軽いものにされたような気がした。でも誰が悪いとかじゃない。僕は僕なりに自分の精一杯で音楽を作ってきた。」
そう言えば曲名も日記帳に書いてあったな。
「曲はAさんの頭の中に存在したんですか？」
「したよ。ついでに言えば、楽譜も存在してた。自分でかいたらしいものが鍵をかけたケースに入れられて。」
「それはどうなったんですか？」
「シュレッダーにかけられた。僕が言う前に、Aがやってくれた。未来に生まれる予定の楽譜が存在するなんて冗談じゃないからね。」
千さんがふっと穏やかに微笑む。
ボクの心も暖かくなった。
Aさんは千さんのために、楽譜を処分した。
･･･それを誇りに思うよ。
人のために自分のものを捨てる覚悟があること。
人のために手を離さない覚悟も、忘れて欲しくないけど。
「お2人がAさんの前世の記憶の存在を知ったのはいつなんですか？」
水を飲み干して聞く。
「オレは、あけぼのテレビ開局50周年パーティーん時。」
「僕はTRIGGERの拉 致事件があったじゃない？あの後。」
千さんの言葉で、テレビ局でAさんを見た時を思い出した。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 237人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：miz | 作成日時：2020年12月22日 9時
