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「もういいだろう。いつまでたっても平行線なのは僕らから聞いても明らか。帰ってくれ。」
何かを言いかけるような素振りの九条を千は押し出し、バタンとドアを閉めた。
「･･･大丈夫？後でなんかされたりしない？」
ほとんど黙って事の成り行きを見守っていた百が、心配そうな顔をする。
前世の記憶と今までの九条の行動を頭の中で振り返って、口を開いた。
『多分、嘘をついたりワザと貶めるような事はしないと思う。愛が曲がってみえるだけで。』
ただ、ゼロを愛してやまないだけだ。
求めているものが自分の手を離れて、それが受け入れられなくて執着してる。
理想と現実の差に、どうしたらいいのか彷徨っている。
勝手かもしれないけど私は、そう捉えてる。
「さっき言おうとした“ただ･･･”って何？」
千が私を向いた。
“未来を思えば、もしかしたら今のままじゃない方が良いのかも知れない。”
千にそれを言っていい事じゃない気がする私は、ギリギリ言える言葉を思案して返した。
『あの人が求めてるのは天や理ちゃんじゃなくて、ゼロだから。それに気づけば迎え撃つ必要も何もないけど･･･私がいるから変わる、とかだと困るかな。』
「･･･それは、存在の話？立場の話？」
百が眉間にしわ寄せて聞いてくるけど、どっちも、とは返せず、ただ苦笑するしか出来なかった。
・
天に、“前世の記憶”だけを口にせず、九条と話した内容を教える。
天は聞きながら考える素振りは時々するものの、表情は変わらなかった。
「それで？九条さんを追い払ったのに、どこで考えが変わったの。」
私が前世の記憶を思い出した日に天と陸と出会った事は、話すつもりは元々なかった。
好きになって付き合っても、天は私の事で違和感を感じてる風なこともなかったし、記憶は少しずつ薄れていってたから。
でも、記憶が残っていることが、距離を置く理由になってしまった。
付き合わなきゃ良かったのかもしれない。
でも、あの時はただ嬉しくて。
天が自分の幸せを望んでいて、それを私が与えられるんだと言われてるような事が嬉しくて。
手を取ってしまった。
今はもう、前世の記憶はないけれど。
太股に置いた自分の両手を、ギュッと握りしめる。
『･･･私は、私が関わらない方が九条を救えるんだと“知ってる”。私が関わったら、どう変わるのかわからないし、それで天が･･･もし天が苦しい思いをするなら･･･絶対嫌。』
「は？何、それ。」
天の声に怒気がこもった。
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作者名：miz | 作成日時：2020年12月22日 9時
