221 〜天side〜 ページ23
「ありがとう。だからAちゃんも、もしかしたら、悩んだ末なのかなって思って。ありのままの自分で生きていくって、結構勇気いることだと思うから。」
本当は、許してあげてと言いたいんだろうな、龍は。
でも、それはボクが理由を知った後どう感じるかの問題だから、強制はしないんだろうけど。
「･･･ん。わかってる。一方的に怒ることはしないよ。」
そう言って頬を緩めると、龍がホッとしたように微笑んだ。
じゃあ朝ご飯作るよ、と、龍がキッチンへ行く。
ボクは着替えに自室に戻った。
・
テレビ局の隣の建物に行くのに、テレビ局を通った時、龍が千さんの楽屋を見つけたと言った。
Aさんは？と問いたくなるものの、今込み入った話が出来るほどのまとまった時間が取れるわけじゃない。
「あ、千さんだけの楽屋だったよ。」
龍が慌てたように付け足す。
ボクの気持ちを察してくれるんだ。
「ありがとう。大丈夫。ゆっくり話す時間が取れるわけじゃないから。」
「でも行って挨拶だけしていくか？」
「そうだね。ちょっとだけ様子見に行こうか。」
楽と龍の言葉に頷いた。
千さんとの話が一段落して楽屋を出ようとすると、千さんが後ろから声をかけてきた。
「天くん。」
「何ですか？」
振り向くと、千さんが読めない表情のまま口を開いた。
「ヤスの引退理由と、Aがキミと距離を置いた理由、聞かないの？」
無意識に体がビクついて力がこもる。
ヤスさんが引退理由はともかく、ボクと距離を置いた理由も知ってるって事？
百さんも知らない風だったのに？
いや、あれから後で知ったとしてもおかしくはない。
「･･･話を聞く時間まではきっとありません。本人に聞こうと思います。」
「いいの？多分、1月になってからじゃないと、Aは捕まらないよ。僕らでさえゆっくり話す時間が少ないんだ。」
「いいですよ。問答無用で距離を置かれてるようなものですし。ただ、このまま済ます気はありません。」
嫌と言うほどわかって貰う。
ボクがAさんと付き合う覚悟が、どれだけのものなのか。
ただのラビチャや電話でも、Aさんと思い合ってる自信があるのとないのとでは大きく違う。
千さんを真っ直ぐ見据えて言う。
この人に言っても仕方ないことだけど。
千さんが感心したかのように“へえ･･･”と口元に手をやる。
「引退理由や距離を置く理由がどうだろうと、Aへの気持ちは変わらないって事？」
もちろん、と頷いてから答えた。
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作者名：miz | 作成日時：2020年12月22日 9時
