213 〜天side〜 ページ15
「ぅわ･･･っ」
ガチャーンと音がする。
マグカップを拭いていた手が滑って、落としてしまった。
「大丈夫？天。怪我してない？」
「してない。ごめん、龍。動かないようにして。掃除機取ってくる。」
布巾を置いて、割れたマグカップを避けながら移動すると、軍手をした楽が掃除機を持って来た。
「ほらよ。どいてろ。」
掃除機を渡されて、楽は割れた物を拾っていく。
「ありがとう。」
「大丈夫か？おまえがボーッとしてるの珍しいな。」
「･･･別に、ボーッとしてたわけじゃ･･･」
楽が紙袋にワレモノと書いて、そこに割れたカップを入れてる。
憮然とした気持ちのまま掃除機をかけた。
掃除機をかけ終わって片付けようとすると、楽がボクの頭にポンと手を乗せた。
「疲れてんなら休め。後は俺がやるから。」
楽を見てから龍を振り返ると、２人共優しく微笑んでいる。
今日の九条さんとの電話のことを言ってるんだと分かる。
「･･･うん。そうさせて貰おうかな。」
そう言って、力なく微笑んだ。
「やっぱりさっきの電話気にしてるのかな･･･」
「だろうな。･･･俺がバラした手前、天には悪かったとは思うが、あれで良かったとも思うけどな。」
２人の会話をうっすらと聞きながら部屋に入った。
ドサッとベッドに身を投げる。
手の甲を額に当てて、天井を仰ぎ見た。
さっきの九条さんとの会話、全部本当の気持ちなのに、Aさんの事を誤解されているような気がしてならない。
案の定、別れろと言われてしまった事を思い出すように目を閉じた。
ボクに恋人がいると知ったファンの子達は、ショックを受けるだろう。
それだけじゃない。
離れていく子もいるだろうし、それが憎しみに変わる子もいるだろう。
その気持ちはどこに行くのか。
Aさんへの憎しみに変わる。
Aさんが攻撃されることになる。
しかも成人女性と未成年。
叩かれることは安易に想像できる。
それが九条さんがボクに言った事だった。
･･･そんなの分かってる。
だから出来るだけ２人で会うようにしないとか気をつけているし、Aさんとボクのことを知ってる人も最小限にしてる。
小2に出会ってから･･･恋心を自覚したのは遅かったけど･･･それからずっと想ってきてるんだ。
何度もやめようと思って、自分を誤魔化そうとしたりして、それでも変わらなかった想い。
離したくない。
いつの間にか、そのまま目を閉じて眠っていた。
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作者名：miz | 作成日時：2020年12月22日 9時
