109 〜大和side〜 ページ38
『ちゃんと愛情に溢れてて、人のために一生懸命になれて・・・だから好きになったんだよ。今のヤマさんは、ヤマさんらしくない。』
「は・・・そんなの、俺じゃねえよ・・・」
俺は、そんな良い奴じゃない。
一生懸命なんて面倒くさい。
ほどほどで十分じゃねえか。
Aから手を離して座ると、Aも座った。
「知ってんだろ。復讐で芸能界入ったってさ。」
『私に会うためでもあるでしょ?』
「結局不純じゃねえか。」
『いいじゃない。今、皆に一生懸命だよ。今日喧嘩したのはヤマさんのせいだけど。言いたくない事は言いたくないって言うだけでいいなんて、みっちゃん格好いいよ?普通、話して欲しいって思うもんでしょ?』
インターホンが鳴る。
Aが出て、万理さんがここに来るらしい。
【ああ、本当にここにいちゃ駄目なのか・・・】
ぎゅっと拳を握る。
でも。
これだけは聞かないと。
行けない。
「A。」
『ん?』
視線が合う。
「Aは俺と別れるつもりか?」
Aの目が大きく見開かれた。
驚いてる。
分かる。
でも、今は言葉で確証が欲しい。
Aがふっと笑った。
『ヤマさん次第だよ。』
【俺次第・・・?】
それはどういう意味だろう。
俺が別れると言えば別れるのか。
俺が役を掴めば別れないで済むのか。
そこに・・・
「そこに・・・Aの感情は?」
ポツリと呟くように、俺の口から漏れた言葉に、Aは軽く息を吐いた後、微笑んで答えた。
『あるよ。』
「・・・っ」
パタパタとAがリビングから出て、水で濡らしたタオルを持ってきた。
それを俺の目に当てる。
『泣かないの。明日撮影でしょ?』
「分かっ・・・っ泣いてねえよ。」
『あーあー。私も甘いなぁ・・・』
Aは笑っていた。
思わず俺がAに寄せた顔に、今度は抵抗することなく受け入れてくれた。
【ああ、これで十分だ。】
車に乗せて貰って万理さんの家に向かう。
「すみません。」
「いいよ。気にしないで。・・・ああ、でも泊まる事は、千には内緒ね。」
「何でですか?」
「ずるいとか、いいそうでしょ。」
「ああ。そうですね。自分も泊まるとか。」
「そうそう。」
万理さんは笑ってたけど、まだ笑う気にはなれなかった。
Aが俺の事をまだ好きだと思ってくれていても、距離を置いたままなのは変わらないし、ミツと喧嘩したままだし。
【もう潮時か・・・】
そう思いながら窓から移りゆく景色を見ていた。
123人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:miz | 作成日時:2019年4月28日 22時