【文スト×東方】第三篇 この余白はそれを書くには狭すぎる。

105. ページ28

.





「貴女がぼくに情報を流すことに、利点を感じないのです。
貴女のこの行動は、貴女にとってどのような利点を生むのです？」





その質問は、異色といえた。


それを感じたのか、両者無言だった。



彼彼女は、並外れた頭脳の持ち主だ。

頭脳的な駆け引きにおいて、相手の行動の目的、それによってえられる利益の予測というのは基本中の基本である。

自分で察せられぬこそすれ、本人に訊くなど論外であった。




「………ふふ。
私、貴方のそういうところが好きよ」



彼の質問っきり、しばらく黙ってただ下を見ていた青娥だったが、静かに顔を上げた。

その表情に、ドストエフスキーが僅かに怯む。



その表情は、今日彼女の見たどの表情よりもどす黒く、そして何も感じられなかった。



彼がかすかに息を呑む。





「そうね、強いていうならば──」







“情けを抱いたから”、かしら。







「………情け？」



もっと壮大な理由が来ると構えていたが、パッとしない質問に彼は思わず肩透かしを食らった。

青娥は何も答えず、ただうっそりと笑みを深めたのみだった。

その瞳と相反し、情けと告げた彼女の声色に體恤(tǐxù)の意があった。





彼には、判らなかった(・・・・・・)。

彼女の、ここにきた動機が。





今までの質問は、半事実確認や一種の余興を質問の形式で訊いたものであったが、先ほどの質問は彼が本当に疑問だったことだった。

彼の脳内で疑問の言葉が駆ける。





誰にかけた情けか？

なぜ情けをかけたのか？

なぜ情けが敵に塩を送ることに繋がるのか？





疑問点あげればきりがない。

ドストエフスキーはたっぷり3秒思案した。





のち、その疑問などをひっくるめて思うままにそのまま口を開いた。





「そうでしたか」





そう答え、指を膝上で組んだ。


そして静かに、口を開くことなく瞳を閉じる。


その対応に、青娥が意外そうに黙る。







──訊かないの？

訊く必要がありませんから。

あら、………そう。

それに。

それに？

……不明なままも、一興かと思いまして。

ふふっ…………。






言えてるわね。





.














體恤……中国語で“相手に同情する”“心遣いを示す”“心中を思いやる”
上にあったアルファベットは、ピンインと言って中国語の読み方です。
なお私は読めません。

106.→←104.

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す