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「先に女を逃す心意気……感心に値するよ。
私の名前は驪駒早鬼だ」
「ご丁寧にどうも。俺は立原道造だ」
己への喝入れに、鼻に貼られた絆創膏を投げ捨てる。
「お生憎、ここは人目がねぇからな…本気で行かせてもらうぞ」
「嗚呼、私も強いやつには敬意を払うタチなんだ。せいぜい楽しませてくれよ？」
───異能力【真冬のかたみ】───
立原は手始めに、周りにある金属を全て
──その数100近く──を浮かせてみた。
「おお……やはり、実力を隠してたようだね。これは随分と骨のある相手だな」
ニヤリと笑った後、立原は轟音を立ててそれらを全て早鬼目掛けて吹っ飛ばした。
「よっ、と……ッッ!?!?」
鱗弾で応戦した彼女だったが、次第に捌ききれなくなりいくつか鉄をまともに食う。
そんな彼女に突如一拍遅れてこの建物を支える鉄柱が飛んできた。
ガツッ、と鈍い音。
「…………」
立原はじっと土煙の先を見据える。
だが、大きくはためいた黒翼のシルエットに目を見張る。
「こりゃあ驚いたぜ……こんな大きな鉄も操れるなんてね…………ごほっ」
ぱんぱんと埃を払った彼女は、致命傷は負っていなかった。
「……小型の飛行機ぐらいなら止められるぜ。
にしても、それをかすり傷だなんて、お前何者だ？」
じとりと汗を垂らしながら立原が問う。
「聞いてなかったのか？
私の名前は驪駒早鬼、最強最速の黒馬だよ」
そうして彼女が手に弾を練り上げる。
「さぁ、お前も私の地上征服の犠牲───」
そう言いかけた瞬間、彼女の足下が陥没する。
「っ!?」
そして、早鬼が音を立てて落ちていく。
「…………私を見くびらないで頂けるかな」
震える足で立ったのは…
「ひ、広津のジィさん！」
ぎょっとした顔で立原が叫ぶ。
「油断は禁物、と言うだろう？」
抜けた床の下を見て、足下に転がる小石を蹴落とす。
「安心しろ立原。お前のことは他言しない」
広津の少し穏やかな表情に、立原が目を見開く。
「…………知ってたん、スか」
「熟練の勘だと思ってくれ給え。
君に異能力があるのは見て取れた。
大丈夫だ、私以外に気付いている者はいない。あの首領でもな」
(俺が潜入捜査官なのはバレてねぇな…)
立原はひとまず最悪の事態を回避し安堵した。
「んで? なにが禁物なんだって?」
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作者名：颯貴@きっちょー | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/MizuhasiSatuki/
作成日時：2021年7月18日 17時
