狭 ゆ 揺 幕 ページ32
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これから始まりますは幕間「揺蕩うゆめの狭間で」にございます。
お話タイトルは全て縦書きとなっていますので混乱なさらぬよう。
それでは───
…………………………………
ふと、ぱちりと八千慧は目を覚ました。
見慣れない異色の光景に、目を瞬かせる。
「あ、目覚めましたね」
そんな彼女に、ドレミーが声をかけた。
「………ここは」
「ここは夢の世界。私はその世界の番人のドレミー・スイートと申します。
以後お見知り置きを」
「………私の名は?」
「ええ、八千慧さんでしょう?
紫さんから話は聴いています。お体は大丈夫ですか?」
「……………えぇ。素晴らしい回復術ですね」
「それはどうも」
体を起き上がらせた八千慧に、目立った外傷はない。
あれほど使った霊力も、全て回復していた。
ぱらぱらと本をめくっているドレミーに、八千慧は目を細める。
「何をしているので?」
「この夢日記という本で夢の世界の事実を整頓しているのです。
なかなか骨の折れる作業ですので黙って静かにしててください」
そう言ってまた場所に沈黙が流れる。
隣に眠る早鬼は、ぐーすか熟睡していた。
いくら時間が経ったか、ふとドレミーが声を上げる。
「そういえば、少し気になったことがあるのですがお聞きしても?」
「…………」
八千慧の内心は、そちらが黙れと言ったのだろうという苛々が渦巻いていた。
「………なんですか」
「なぜ貴女、
能力を使わなかったのですか?」
本から目をあげ、じっと八千慧を見据える彼女に、八千慧は目に翳りを見せた。
「貴方の“逆らう気力を失わせる程度の能力”は、如何なる大物だろうと全知全能の神だろうと、一言で従わせるとても強力な能力です。
その能力があれば、貴女の目的であった首領の首ぐらい余裕だったのでは?」
静かに問いかける彼女に、八千慧はすっと視線を逸らした。
「別に、どうしようと私の勝手でしょう」
しらばっくれる態度を取る彼女に、ドレミーはなおも表情を変えない。
「……………悔しかったのよ」
それに観念したのか、八千慧は絞り出すように声を紡いだ。
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作者名:颯貴@きっちょー | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/MizuhasiSatuki/
作成日時:2021年7月18日 17時