微睡み 2 (ページ32)

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青 side

ほくとが話せた言葉は、「じゅり」のたった一言だった。

自分の名前さえ言えないのに、何故か俺の名前だけ呼んだ。

嬉しいとき、悲しいとき、苦しいとき。

声色を変えて何度も何度も「じゅり」って。
……そう呼んだんだ。

「じゅーり、」

「なぁに、ほくと。」

「…じゅり！」

「なぁんだよ、うれしいの？」

「じゅ……りっ、」

「泣くなよ、ほら涙拭くぞ。もう泣かない。いーい？」

それしか話さなかったけどほくとの感情は何故だか手に取るように分かって、神様が俺にそんな力を与えてくれたのだと幼いながらにも思ったりした。

でも、親は感情が見えないほくとのことを嫌がった。…俺への嫉妬ももしかしたらあったのかもしれない。

俺しかほくとの気持ちが分からない、という現実が両親のプライドを傷つけてしまったのかもしれない。

学年が上がるにつれて開いてゆく、俺とほくとの学力の差。それに比例するように、親のほくとへの当たりも冷たく、強くなっていった。

だから高校を卒業したその日にはもう、荷物を纏めてほくとと2人家を出た。

「俺が守ってやるからな、ほくと。」

あの日の弾むようなアスファルトの感触は忘れたくても忘れられない。

ほくとが嬉しそうに笑った顔もまた、俺の脳裏に焼き付いている。

……まるで、烙印の如く。

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