微睡み 2 (ページ19)

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黒 side

『無茶だよ、そんな熱で。』

弁当を詰め終えたかと思えば、スーツに袖を通し始める。
　

昨日の喧嘩の事も気がつけば頭から消え去るほど、今にも消えてしまいそうな兄が心配になっていた。

『…無理だって、休めよ！』

「離して、北斗。」

玄関で革靴を履き始める兄のスーツの袖を必死に引く。…あれ、こうやって外出する兄に縋るのって何年ぶりだろうか。

『なんでそんなに無理すんだよ、俺には散々言うくせに…！！』

「無理するくらいしか…！！」

「……無理するくらいしか、俺が北斗にしてやれることってないだろ。」

温厚な兄貴が初めて俺の手を払って、大きな声を上げた。絞り出すような叫びに思わず俺は掴んでいた手を離す。

「俺は、北斗になんもしてやれない。病気をよくしてやる事も受験をどうにかしてやる事もできない。……悔しいけど現実だ。」

「入院退院を繰り返す北斗の苦しみも志望校を諦めなきゃいけなくなった北斗の悔しさも全部理解してやることなんてできない。」

「だから俺は無理して働くんだよ。稼いで、稼いで、もっともっと稼いで。……北斗を助ける手術が開発された時、北斗がやりたいと思ったことができたときにお金を出してやるのが兄として……ううん、保護者としての精一杯。」

俺は昨日、兄貴にあんなに酷い事を言った。ただの八つ当たりだった。

兄貴の優しさを素直に受け取るのが恥ずかしくて、〝お節介〟って言葉で消化して。

関係ない事も全て兄貴の責任に纏め上げた。

それなのに、兄貴は正面から受け止めて背負おうとしてくれているのだ。

うまくいかないことにいちいち言い訳をしている自分が急に情けなく感じた。

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