微睡み 2 (ページ2)

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あなた side

ここのスーパーにはもう何百回と通って、レジの人とも世間話をする仲。

棚の配置や食品の場所は殆ど私の頭に入っている。

でも、北斗くんのこのスーパーの記憶は倒れた日を境にリセットされてしまった。

入り口に置いてあるチープな焼き芋を昔ははんぶんこしながら帰ったりもしたなあ。

今はもう、その焼き芋売り場に見向きもせずにスルーしてしまうからほんのちょっと寂しいな。

ここが家から1番近いスーパーだし、1人でお買い物しにくることだってあるかもしれない。

だからその時のために、リハビリを兼ねて北斗くんにお願いしてみた。

「北斗くん、牛乳1本取ってきてくれる？いつも買ってる、キャップ付きのパックの。」

『牛乳……。』

「そう。ここを真っ直ぐいったらすぐ見つかるから。」

『Aちゃんは一緒に行かないの？』

やっぱり人混みで私の手を離すのは怖いみたいで一緒に行こう、と訴えかけてくる。

「私、ここを動かずに待ってるから。絶対居なくならない。だから北斗くんに持ってきて欲しいの。」

社会は厳しい。

北斗くんの今の頭の中の状態をどれだけ説明したって、理解されなくて会社から追い出されて。

目に見えないからこそ、〝普通〟であることが当たり前だと認識される世界。

他の人が勝手に作られた〝普通〟の枠組みを押しつけて、当てはめて、少しでもはみ出せば知らんぷり。

悔しいけど、それが現実。

本当は怖いことなんてしなくていいよ、おうちに居ていいよって言ってあげたくてもそれは北斗くんを更に孤立させてしまう要素になることは私が1番分かっているから。

だから繋がれていた手をゆっくり解いて、背中を押した。

「頑張れ。」

歩き始めた時はちらちらと私の方を振り返っていたけど、私が場所を動かない事が分かったからかそのまま前を向いて歩いて行った。

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