いのち (ページ43)

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光side

施設の中に入ってきてから、ふと足を止めた慧さん。

慧「……ぅ、っ、……う、っ」

支えていた手にぐっと重さが加わってようやく、慧さんが立っていられなくなったのだと言うことに気がついた。

光「……慧さん、こっちを見てください。」

慧「……っ、……こうするしかなかったんです、だいきのためには、これしか、っ…」

今朝方、大貴くんは電話口で

「もう、俺のことも判別がつかなくなったみたいで…拒絶、されました。」

と、語っていたはずだ。それなのに、さっきまで無表情だった慧さんの目には既に光が戻っているではないか。

彼は何故、〝分からないふり〟をしたのか。

答えは深く考えずとも、慧さんがさっき発した言葉にあった。

光「本当に、良かったんですか？今ならまだ、」

慧「朝、リビングに行きました。ドアを開けて、…一瞬、わからなかったんです、大貴のこと。」

「あれっ、て思って……考えて、漸く思い出しました。」

「息子のこと、少しでも忘れた自分が怖かったんです…、あぁもうこんなになっちゃったんだな、って、」

「あしたは、考えても思い出せないかもしれない。だったら、こうして離れていた方がお互いのため、なんです。」

慧さんは、大貴くんから伺っていた普段の様子とは違っていて、とても饒舌に物事を話した。

慧「これからよろしくお願いします、」

慧さんの大貴くんへの気持ちがかけた魔法だと思った。

だって、その数時間後には会話がままならなくなっていたのだから。

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