いのち (ページ15)

今日:38 hit、昨日:3 hit、合計:56,758 hit

・ページ15

大貴side

俺は手の中の写真と、自分の過去の名前とをじっと見つめながら父親の話を聞いていた。

慧「だから俺は、大貴の本当の父親じゃない。……ごめんな。」

話し終えた時、父はどこかスッキリしたような顔をしていて今までずっと俺の為に閉じ込めてきてくれたのだと思った。

慧「…大貴に聞かれたらちゃんと話そうって思ってた。それなのに大貴は、ちっとも気にする様子なんて無くて。…でも今考えたら気を使わせてしまっていたのかもしれないね。」

「本当は分かっていたはずだよ…うちは普通の家族より欠けてるって。それなのに、どうして大貴は何も聞かなかったの？」

父さんは、すっかり落ち着いて俺の目をスッと刺すように見つめる。

うるうると揺れたその瞳。何度も見てきた父さんの目。俺は、この温かい目が好きだ。

大貴「……寂しくなかったから、かな。」

「俺も母親がいないっていうのは認識してたけど、父さんだけでも寂しくなかった。」

「学校行事には必ず来てくれたし、休みの日は色々な所に連れて行ってくれた。俺がした事何でも褒めて、凄いねやったねって頭を撫でてくれて、」

「有り余るくらい十分に愛情を貰って、幸せだった。」

日はもう既に落ちて、公園の街頭がジリっと音を立てて点灯した。

大貴「分かってた、普通の家族とは違うってこと。……でも、俺、…俺、」

気付かぬうちに、さっきまで仕舞い込んでいた涙がまたぽろりぽろりと頬を滑り落ちた。

大貴「……2人家族が〝欠けてる〟家族だとは思った事ないっ、！！」

例え血を分けた家族じゃ無くとも、俺たちはちゃんと親子だった。

俺がこれが家族のカタチだと信じて疑わなかったのは、父さんがいてくれたからだ。

・