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慧side


慧「………そんなことないよ。」



俺にはその一言で精一杯だった。うまく言葉を紡げなかった。



雄也「…そっか。」



たった一言なのに、俺の言葉に頬を緩めて笑った。優しい笑顔だ。



これが彼と交わした最期の会話だった。




2日後、病院を訪れて空のベッドを見たことで雄也の死を知った。







それから、俺の日常何が変わったか?と言われてもよくわからない。



普通に学校に通って、いつも通りに罵声を受ける。



でも、体は覚えていた。彼の温もりを。



意識せずとも俺はあの公園のベンチに腰掛けていた。



あの日放射線状に飛び散った水も当たり前だが綺麗に消えていた。



空を眺めていたら、隣からあの声が聞こえてきそう。



「慧!!」



くだらない漫才を見て大笑いしている。



「ひっ、!はははっ!!おもしれぇぞ!慧も見ろよ!」



訳の分からない洋画で涙している。



「これな、主人公死んじまうんだぜ、辛いよなぁ」



この景色に溶け込むように存在した彼の事が思い出された。



そこで初めて自分の頬を伝う液体の正体に気がついたのだ。



俺、今泣いてる?



拭っても拭っても拭いきれない。



ポタポタと洋服にシミを作っている。




慧「なんでっ、……なんでこんな、っ、」




俺を待ち受けていたのはあの洋画よりもずっと真っ暗なバッドエンドだった。




「こんなの、知らないっ、……しらないっ、」




彼が身をもって教えてくれたこの感情の名前を。




その感情の名前を俺はまだ、知らない。









「××」/ end






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作者名:あむ | 作成日時:2020年9月1日 12時

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