微睡み 8 (ページ9)

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黒side

黒「兄ちゃんの体拭くの今日俺がやっても良い？」

兄ちゃんは毎日はお風呂に入ることができない。入浴にも適切な介助が必要で、ヘルパーさんが来てくれる時だけ頼むことにしている。

普段は蒸しタオルで体を拭くのとドライシャンプーで済ませることが殆ど。疲れた日はそれすら拒否することも多いけどね。

体に触れられたり、タオルが擦れる感覚に過剰に反応してまた動き出してしまう兄ちゃんの体。

桃「……んんっ…んっ、」

黒「つらいね、兄ちゃん。」

いつのまにかほっそりしてしまった兄ちゃんの体。腕にはいくつも痣があって、バギーやベッドの柵に手がぶつかって部屋に鈍い音が響いていることを思い出した。

がちっと強く噛み締められた口の端から、涎が出て顎まで伝っていく。それをティッシュで拭ってあげながら兄の体が落ち着くまで待った。

黒「痒いところない？」

ドライシャンプーを頭につけてわしゃわしゃと洗うように馴染ませると、汗でベタついていた髪がさらさらに戻った。

俺とは全く似てない、色素が少し薄い髪の毛。

黒「……兄ちゃんだって、選んでも良いんだよ。」

兄ちゃんが発作を起こして運ばれたあの夜。兄ちゃんは、自分には選択をする権利が無いみたいに俺に〝選んでいいんだよ、ほく〟って言った。

でもあの言葉が俺にとって助けになったと同時に心のどこかにずっと引っかかっていた。

痛みを訴えること、好き嫌いをすること、頭を綺麗に洗ってもらうこと。

生きていれば誰もが無意識にしていくことを、兄ちゃんは選択して閉じ込めている。

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