微睡み 8 (ページ7)

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◎ 千択　［桃］ページ7

微睡み7の「選択」の世界線です。

黒side

あの日の兄の言葉に背中を押された俺は、休職をする〝選択〟をした。

目の前の道をどちらに進むか選ぶことのできる自分の環境に感謝しながら。

俺は実家に身を置きながら、今は自分の心のバランスを取り戻すために精神科への通院を始めた。

通院を終えて、家に戻ったタイミングで丁度リビングのブザーが鳴った。兄ちゃんからの呼び出しの合図だ。

黒「いいよ、俺行ってくるから。」

立ちあがろうとした母さんを制して、旧子供部屋へ足を踏み入れる。

兄はベッドの上で、何を言うでもなく目をきょろきょろさせていた。こういう時は大体、トイレの世話を求める時だ。

桃「……ｯごめ…っ…ほ、くｯ」

黒「いいんだよ、そんなの。すぐ終わらせるね。」

ズボンを脱がせ、さっとオムツを変えようとするとお尻から腰の部分にかけてが赤くかぶれているのに気がついた。

黒「……兄ちゃん、これどうしたの。」

これだけ酷く赤くなっていたらもちろん痛みもあるだろう。よく見ると透明の膜が張っているので、母が薬を塗布したのだろう。

いつもはお喋りな兄ちゃんも都合が悪くなるとだんまりだ。

俺から必死に目を逸らして、もう聞くなって顔をしている。

とりあえず、傷になるべく触れないように優しく体を拭いてやりズボンを履かせた。

黒「母さん、兄ちゃんのあの怪我なに、？薬、母さんが塗ったんだよね？」

母はバツが悪そうに目線を落とした。

［最近、ヘルパーさん変わったのよ…。新人の子に変わって、森本さんに比べたら仕事が大雑把な所があるの。］

オブラートに包んで話す母だが、要は仕事が雑なのだろう。

［でもね、大我には何度も聞いたの。変えてもらうように言おうか？って…。でも、大丈夫だって言い張るの。］

母も本当は、その選択が兄ちゃんの本心じゃ無いことくらい分かっているはずなのに。

黒「森本さんはなんで担当変わっちゃったの。」

〝パパになるんですって。〟

さっきまで感じていた憤りにも似た感情がその一言で中和されていく。

自分を犠牲にしようとする兄の気持ちが優しさからくるものだと分かって安心したのだ。

ただ自分の気持ちを押し込めているなら怒鳴ってやろうとも思っていたけど、こうなると兄ちゃんになんて言葉をかけていいのやら。

兄のいる部屋に一歩踏み出せない自分が情け無く思えた。

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