微睡み 8 (ページ17)

今日:42 hit、昨日:192 hit、合計:41,586 hit

・ページ17

青side

黒「ジェシーの声は、魔法なの。誰でも笑顔にできるの。辛くても悲しくても、ジェシーといたら、誰でも…笑顔にっ、」

ホクトがもう一度ぬいぐるみの腹を押す。

〝ほくちゃん、笑って！smile！〟

黒「っ…、ジェシーっ、！」

その声が流れると、ホクトは我慢の限界に達したようでぽたぽたと涙を溢れさせる。

さっきの感情に任せた涙とは違う、白い肌を映しながらゆっくりと滑り落ちていく雫が美しかった。

黒「これね、〝ワライグマ〟って言うんだって。アライグマ、ならぬ。ってふざけながらジェシーが言ってた。」

動物に疎い俺はレッサーパンダだと思っていたが、どうやら正体はアライグマだったらしい。

黒「笑うのが苦手だった僕にジェシーが遺してくれたの。今はまだ、聞くと泣いちゃうんだけどね、笑」

俺はその時、いつの間にか吐き気が落ち着いていたことに気がついた。

ジェシーって人のことを俺はほとんど知らない。でも、多分薬のようなビタミンのような誰かを補ってくれる存在だったのではないかと思う。

青「整理できなくても良いんじゃないかな。…忘れる必要なんてないよ。」

黒「…え？」

青「1ヶ月経っても、1年経っても、何年経っても。ホクトはそのままのジェシーを覚えているべきだと思うよ。」

ホクトとジェシーの別れが、俺とホクト、そして俺とジェシーの出会いを作った。

黒「ありがとう、ジェシー。」

その力強いホクトの言葉を俺も心の中で同じように繰り返した。

fin
・