微睡み 8 (ページ14)

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桃side

黒「どう？美味しい？」

桃「うん、ほっくんのハンバーグ好き！」

既に小さく切られたハンバーグ。左手が自由に使えない僕のために、ほっくんはいつもこうやって工夫してくれる。

ほっくんのハンバーグはお店と並ぶくらい美味しいし、とても好きだ。

でも僕が思い出すのは、パパのハンバーグ。

ちょっと焦げた匂いのするケチャップソースの味が忘れられない。

ちょっとぼそぼそしてて、箸で切ると食べにくく崩れていったけれど、あのハンバーグが僕にとってはお店のものよりずっと美味しく感じたんだ。

黒「保育園、どうだった？」

桃「いつもと同じだよ、楽しかった！」

かぞくの絵をかいたことは言えなかった。ほっくんを書いたことが分かったら、またほっくんはきっと泣いてしまう。

あの事故の日から、僕が記憶を失っていると思っているほっくん。目が覚めてから少しの間、忘れていたのは本当。

でも、パパのことを忘れることなんて出来るはずがなかった。

少しずつ記憶のかけらを取り戻して、全てのピースが揃った時もほっくんに言えなかったのは今でもどうしてか分からない。

〝…ごめんね、じゅり〟

毎日、朝も夜も謝り続けるほっくんに声をかけることもできない代わりだったのかもしれない。

ほっくんが食器を洗っている間はほんの僅かの内緒の時間。

水を流す音がほっくんの耳を邪魔するから。

パパが眠る部屋に忍び込んで、ベッドの中の手を探して握る。

桃「…パパ、だいすき。」

___ピッピッ

___シューッ

___プシュー

僕のだいすきを掻き消すのは、世界で1番だいきらいな音。

fin
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