moon (ページ10)

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赤 side

黄「北斗。お仕事中だよ。」

頭上から突然声が聞こえて、思わず顔をあげる。俺とそこまで変わらぬ年齢だろうに、館長と左上に書かれたネームプレートを胸元につけていた。

『あ、ゆうご。なんでいるの。』

黄「北斗がちっとも帰ってこないからだよ。ほら、これ返却された本沢山あるから戻してきてくれる？」

『わかったぁ』

北斗、と呼ばれた彼は本が入った袋を受け取ると少しの迷いもなく本を棚に返していく。

黄「北斗のお話、長かったでしょう。足、疲れてませんか？」

赤「あ、いいえ。とてもいいお話が聞けました。」

黄「貴方が初めてですよ。北斗のお話を飽きずに聞いてくれたのは。大抵みんな北斗が座り出したくらいで離れていってしまうんです。」

「俺の甥なんですけど、アスペルガー症候群って言って北斗の場合は本の知識が人並み外れています。興味あることについてはなんでもかんでも記憶しています。」

「本以外のことに関しては殆ど興味を持てないから、人との関わり方もここで模索している最中なんです。」

彼が北斗さんの話をする時のトーンは、愛情に満ちているけれど遠くを見据える瞳が悲しさも孕んでいるように見える。

黄「ごめんなさい。足止めしてしまって。北斗とお話してくれてありがとうございました。」

ぺこりと頭を下げて北斗くんの方に向かっていく。

『ゆうご、おわったあ』

黄「さすが北斗。」

手の中には彼が説明を重ねてくれた本が3冊。
俺はそれを絶対借りていこうと決めて、胸に抱いた。

赤「また借りにきてもいいですか。」

『……シリーズ3は2月19日までが期限です、返却されます、』

俺は帰りの電車でスマホのカレンダーの2月19日に本の絵文字を打ち込んだ。

fin

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