微睡み (ページ48)

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緑 side

「いーよ、おいで。樹。」

樹は缶コーラを置いて、座っている俺の足に跨り、ゆっくり俺の首に巻きついた。

背中をさすると、僅かな震えを感じる。

そんな彼を落ち着けるように、ゆっくり体の線をなぞるように撫でてやると首に回された手がもっと強くなった。

甘えることを知らなかった樹。

そりゃあ、怖いよな。幼少期、彼にとって家という場所で愛を与えられた事なんてなかったのだから。

ただ痛みにもがき、声をあげても届かなかった牢獄だったから。

彼の場合は不安もその恐怖と等しい。

「樹、おっきくなったなぁ。」

それでも樹は里親の元に行く決断をしたのだから本当に凄いことだ。

だから俺は背中を押してやらなくちゃ。

「俺が今、樹が頑張れる魔法をかけた。だから絶対大丈夫。」

〝辛くなったらいつだって帰っておいで〟

その言葉は言わずに飲み込む。例え話でもまた樹が苦しむのを仮定するなんて良くないと思ったから。

『慎太郎、今までありがとう。』

俺の肩に顔を埋めたまま、樹はぽつりと呟いた。

樹がいつまでも新しい家族のもとで幸せに健やかに過ごせますように。

「もう、絶対帰ってくんなよ。」

だから飲み込んだ言葉の代わり。

これが俺のお前への愛情。

fin

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