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黄 side
本番当日。ダブルボーカルの片方が欠けた状態で俺たちは舞台に立つ。
大我がいない状態で出場する事自体、バンド内でも意見が分かれた。
けれど、大我の意識が仮に戻った時立てる場所がなかったらという気持ちとここでこの舞台を諦めたらなんだか大我に凄く怒られる気がした。
全員の意見は一致して、同じ方向を向いた。それからはただひたすらに練習して、練習して。
楽器を弾きながら涙が出たり、前にいる筈の存在を思い描いて苦しくなったりもした。
けれど俺たちはそのたびに、足を止めたメンバーに寄り添ってまた同じところから歩み始めた。
俺たちは6人、横一直線。誰も置いていく事なく、ここに立っている。
赤「今日は演奏の前に1つ、皆様に言っておかなければいけないことがあります。」
「……俺たちのバンドは本当は6人です。でも、ボーカルが1人今日この場所に来ることができませんでした。」
「大我は、俺たちと離れた場所で闘っています。痛みや苦痛や悔しさと今この瞬間も休むことなく闘っています。」
「全員が、本気で音楽をする場所でこんな事するのは失礼っていうのは承知です。審査から除外されるのも覚悟です。」
「でも、大我の歌声を、練習中の音声から抽出したものを共に流させて頂くことを先にグループ全体からお願いします。どうしても……大我の声無しでは、俺たちの本当の音楽にはなりませんでした。」
ジェシーが言葉に詰まりながら、時に声に悲しみを反映させながら話していく。
俺たちは下唇を噛み締めながら、泣かないように泣かないように堪える。
赤「今一度、録音音声を使用しての演奏になることをご承知ください。」
これが俺たちの決断だった。
『よろしくお願いします。』
赤「大我と俺たちは離れた場所にいるかもしれない。でも、共に闘っている事に変わりはありません。どうか頑張る俺たちの親友にも、エールを下さい。」
ジェシーが深く頭を下げると、会場が拍手で包まれる。
ドラムの慎太郎のカウントから始まる俺たちの音楽。
広い会場にジェシーと大我の歌声が響いて、泣きたくなるほど美しい景色と音色が広がっていた。
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作者名：ばにら | 作成日時：2021年10月21日 11時
